227.眠れない夜は体を脱いで/彩瀬まる
次に目を開けたとき、世界は夜になっていた。(p.147)
一つのネット掲示板に寄せられた投稿が、自身の心に漂っていた違和感をそっと掬いあげていく、彩瀬まるの短編小説。
自身の顔に惑わされる男子高校生、50過ぎで合気道を始めて自らの人生を振り返る会社員、恋人の元カノが残した映画に拘泥する女子大生。
自らの心と体の不一致する部分に思い悩む彼らを繋ぐのは、ネット掲示板に投稿された「手の画像を見せて」という奇妙なスレッドだった。
決して同じ悩みを抱えているわけではないのに、何かに促されるように集まった彼らは、多種多様な手の画像を目にして、心に漂うモヤモヤとした違和感の存在に気づきはじめる。
一見しただけでは誰にも分からないからこそ、生まれたときから身につけている服を脱ぎ捨てる夜があってもいい。
社会のなかでは受け入れられない違和感でも、自身の心であればそっと撫でるように輪郭をなぞって、ここにあると安心することができるのだから。
個人的には『マリアを愛する』が好きだった。もう二度と訪れることのない場所で見る短編映画みたいな、儚くもかけがえのない時間だった。
では次回。