「はじめのところから始めて、終わりに来たらやめればいいのよ」(p.470)
イプシロン・プロジェクトが開発した、ヴァーチャルリアリティシステムを搭載したゲームである「クラインの壺」。
その仮想現実の世界に入り込む主人公が体感する不可思議な体験を描いた、岡嶋二人による長編ミステリー。
岡嶋二人はペンネームであり、実際は二人組で井上泉と徳山惇一によるコンビ作家。今は解散してしまっていて、井上さんの方は井上夢人として現在も活動している。
世に出たのは1989年にも関わらず、現代のVRや仮想現実の到来を予感しているのが凄まじい。パソコンすらまだ普及していない時代なのに。
ゲームの中の仮想世界と怪しい組織の目的、そして現実で起こる物事への違和感。
だんだん主人公たちが「クラインの壺」に対する疑惑を強めていく過程が、不穏な空気を醸しながら臨場感あふれる文章で描かれている。
ゲームの世界と現実の境目はどこなのか分らなくなるほどの世界観は、あまりにリアルすぎてこっちが不安になるくらいだった。
現実と仮想世界が入り混じる作品の元祖ともいえる作品なので、同ジャンルが好きな方は読んでおいて損はないです。通ずるものがあるはず。
では次回。