想像は人を喰らう。観念の産物である龍が、人間を腹の底に呑み込もうとするように。(p.382)
血の繋がらない親と暮らす二組の兄妹のもと、雨の日の起こる死をきっかけに事件は思いもよらぬ方向に転がっていく。
”騙しの天才”道尾秀介が描くヒューマンミステリー。
事故で母を失った蓮と妹の楓は継父と三人で暮らしていたが、継父の暴力と楓への嫌がらせに耐えられず蓮は継父の殺害計画を立てる。
一方、海難事故で母を失い継母と三人で暮らす辰也と圭介の兄弟は母親との関係を上手く築けないまま、兄は非行に奔り弟は母の死で自分を責めた。
雨が降り続ける夜、一つの事件を契機に二組の兄妹が交差して、歯車が狂い始めていく様は暗い未来しか感じられないが、一貫して兄弟の絆は強く印象づけられているのが救いである。
物語自体は曇天の空模様に倣うように暗い雰囲気で進んでいくし、事件の結末に対してはやるせなさや切なさを感じるかもしれない。
それでもきっと読み終わったあと深い余韻に浸ることが出来る物語だと思うので、どんよりとした梅雨が明ける前に手にとってみてはどうだろうか。
では次回。