カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「羊と鋼の森/宮下奈津」の感想と紹介

60.羊と鋼の森/宮下奈津

 

 羊のハンマーが鋼の弦を叩く。それが音楽になる。(p.75)

 

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

 

 

1人の青年がピアノ調律師として成長していく、宮下奈津第13回本屋大賞に選ばれた作品。

 

北海道の田舎で生活していた外村は、高校のピアノを調律していた板取の調律に魅せられ、奥深い調律の森に迷い込んでいく。

 

念願の調律師として働くことになった外村は、他の魅力的な調律師の先輩たちに温かく、時には厳しく指導してもらいながらも、ピアノを通して”音を合わせること”の本質を学んでいく。

 

主人公が劇的に強くなる少年漫画のような展開はこの作品にはない。仕事で出会う様々な人、ピアノ、音と触れ合いながら徐々に調律の世界で成長していく。

 

そんな主人公が成長していくにつれて自分の才能の限界に触れた時、どのように調律と向き合っていくのか。悩みながらも進んでいく主人公にとても感情移入させられる。

 

そして何より、この作品ではあまり馴染みのない調律師の世界が丁寧に描かれているのが新鮮だった。

 

同じ"ラ"という音でも平たい音なのか、丸い音なのか、カチッとした音なのか。家庭のピアノ、コンサートで使うピアノなど、使う人や場所によっても調律の仕方は変わってくる。

 

そういった調律やピアノを弾くシーンでの音の表現の仕方もこの作品では独特で、主人公が深い森に迷い込んだと思うような感覚に共感を覚えるほど。

 

ピアノをやってた人もそうでない人も、読んだらもう少し頑張ってみようかなと思わせてくれる物語です。僕らを励ましてくれる彼らの言葉たちは、ぜひ本の中で。

 

では次回。