自らの身を供物として差し出した月のうさぎの伝説のように、自分の身体をむさぼり食ってもらえれば、そのときにやっと楽になれるのではないかと。(p.76)
プロのロードレースチームに所属する主人公が、仲間との関係や自分の役割と葛藤しながらレースに挑む姿とその最中に起きる事件を交えて描かれる、スポーツとサスペンスが融合した近藤史恵の青春小説。
ロードレースには二つの役割がある。チームの優勝の責任を引き受け走るエースと、それを全力でサポートするアシスト。
主人公の白石誓は一人で走る陸上からロードレースに転身し、自らの使命をエースのために尽くすアシストだと感じ取っていた。
しかし、同期のライバル伊庭や、チームのエース石尾たちとレースを走る中で、徐々に心境の変化が生じる。
ロードレースについてはあまり詳しくなかったので読んでみて、激しい闘いの裏でこんなにも勝つための駆け引きや役割が存在していたことにまず驚いた。
チーム競技にも関わらず個人成績が存在する競技。エースを勝たせるためにあえて勝ちを譲る。自らが力尽きようと、他チームを疲弊させるために無理をして先頭を走る。
エゴと犠牲精神の間で揺れ動き、チームでの役割や関係に苛まれる主人公の様子は他のスポーツでは見られない光景だった。
この熱いスポコン展開に加えてミステリーとしての要素まで入る。後半はより息をつかせぬ展開で一気読み。レース中に起きる事件の衝撃は尋常じゃない。
なんだか読んでて大学生の時、淡路島まで自転車で走ったことを思い出した。余りにもしんどすぎて二度とするものかと心に刻んだあの日。
そんな自分でも面白く読めたので、好きな人にとってはたまらないはず。
ぜひ、読んでみては。
では次回。