「瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。」(p.284)
死んだはずの姉が生きていて自分が存在しない世界で、生きる意味を求めて葛藤する主人公の苦悩を描いた、米澤穂信のほろ苦い読後感が残る青春ミステリ。
事故で亡くなった恋人を弔うために東尋坊にいた主人公は、いつのまにか自分が住んでいる金沢の街に戻っていた。
その世界は今までいた世界とは街の様子も瓜二つで、特段変わった場所はなかった。
家族に以前の世界では「存在していなかった姉」がいるという点を除いて。
さらには、登場する人物や街に変わりはないのに、それぞれの人間関係や性格はポジティブな方向に変化していた。
自分が存在しない世界で、「存在しなかった姉」に影響されて周りの人々の生活は円滑に進んでいく。
そんなとき、自分の存在に価値を見出すことが出来るのか。
どこまで自分の存在を肯定することが出来るのか。
正直読むタイミングを考えないと、主人公に感情移入しすぎてどんどん自己否定に陥ってしまいそうなほど、心をえぐってくる作品。
ただ、最後にどの選択を選ぶか主人公に委ねられているのは、読んでいる人にもその選択を自分自身の手で決めてほしいという想いが込められているからかなと思った。
自分のことを矮小な人間だと思い込むことは簡単で、あらを探そうと思えばどこまでも穿り返せてしまう。でも、だからこそ、現実を真正面から見ないといけない。難しいけど。
米澤さんは若者の影をしっかりと書いてくれる。そこが好き。
では次回。