64.明るい夜に出かけて/佐藤多佳子
世界から色がなくなる俺的造語「失色」状態の時でも、好きな深夜ラジオは、色あせなかった。(p.30)
ある事件から心に傷を負ってしまい、大学に通わずコンビニの夜勤に行く毎日を続ける青年が、そこで出会う風変わりな人々との交流を通して徐々に心を開いていく、佐藤多佳子の山本周五郎賞を受賞した青春小説。
コンビニの夜勤でアルバイトをする主人公のもとには、ネットで「歌い手」として活動する鹿沢や、同じくラジオ好きでハガキ職人の少女佐古田など、独特な個性を持つ人たちが集まってくる。
最初は迷惑そうにしていた主人公だけど、周りのおせっかいなメンバーにだんだんと馴染んでいく姿は微笑ましかった。
そして何といってもこの小説の特徴と言えば、実在のラジオ番組が物語上で度々登場していること。
「爆笑問題カーボーイ」や「おぎやはぎのメガネびいき」など今も続いている番組も多数出てくるのだけど、特にフィーチャーされているのが「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」。
これでもかと言うぐらいマニアックな情報が出てきて、作者のヘビーリスナーっぷりが窺える。
個人的に深夜ラジオはよく聞いていたから、主人公のラジオを聴くときのドキドキ感や一人で聴きながらくすくす笑ってしまう心境には、共感出来た部分が多かった。
実際に深夜ラジオを聴きながら読むと、リアルタイムで実感できてより物語に入りやすくなるしれない。
それにしてもラストの展開、アルピーのラジオ好きだから、実は番組がどうなるかはなんとなく読めてしまった。笑
確かに振り返ってみると、フィクションかと思うぐらいの展開だったなぁ。
では次回。