星は答えない。決して拒みもしない。それは天地の始まりから宙にあって、ただ何者かによって解かれるのを待ち続ける、天意と言う名の設問であった。(p.219)
江戸の時代に日本独自の暦を作り上げるべく、想像を絶するほどの長い年月を捧げた主人公たちの「天」との大勝負を描いた、冲方丁の第七回本屋大賞を受賞した長編時代小説。
徳川家綱が世を治める時代、碁打ち衆として徳川に仕えていた渋川晴海は、本職である碁よりも算術や星に一層の関心を抱いていた。
そして、大名相手に定期的に御城碁を打つ毎日を送る晴海のもとに舞い込んだある指令をきっかけに、彼の二十年以上にもわたる「天」を相手取った戦いの火蓋が切って落とされる。
それまで普遍として用いられていた暦を変える、改暦の儀。
歴史を変えうるほどの重大な責任を伴う事業。
その悲願を成就させようと、膨大な歳月をかけて様々な分野の人々が知恵を結集し、数多の苦難と挫折を乗り越えて、正確な暦を完成させるまでの道のりは余りにも果てしない。
そんな一大計画の責を負い、多くの仲間たちに期待や夢を託されながら、己の人生を懸けて改暦を成し遂げようとする主人公の生き様にとても感銘を受けた。
今では常識として現代に存在している暦だけども、先人たちが途方もない苦労と時間を積み上げて作り上げた末に、世の中に定着したものなのだ。
それも、今ほど測量技術が発展していない江戸の時代に。
いつの世も飽くなき探求心を持っている者が世の中を変えていくんだな。
これでもかと見せつけられてしまった。
では次回。