私はその苦闘を「ナカメ作戦」と名付けた。これは、「なるべく彼女の目にとまる作戦」を省略したものである。(p.156)
京都を舞台に黒髪の乙女と彼女に想いを寄せる先輩が、個性豊かな人々と騒動を繰り広げる、森見登美彦の恋愛ファンタジー。
2017年には実写アニメ化もされたこの作品。
テーマ曲はASIAN KUNG-FU GENERATIONの「荒野を歩け」
物語にマッチしすぎて、夜歩いていると軽率に聴いてしまう衝動に駆られる。
夜の先斗町を練り歩き、下鴨神社の古本市を探索し、訪れた大学の学園祭では思いもよらない大役を任される。「なむなむ」が口癖の黒髪の乙女が歩く世界は、魅惑と驚きに満ち溢れていた。
そして、そんなキラキラとした黒髪の乙女の姿を追い求める先輩は、何とかして彼女と偶然を装って出会おうとするが、そのたびに変てこな事件に巻き込まれていく。
何度となくすれ違いながらも、巡り巡って黒髪の乙女との接点を保とうとする先輩の姿勢には感服の一言だった。ある意味清々しい。もちろん褒めている。
それでも、運命の出会いを果たしたとて「奇遇ですね」の一言で済ましてしまうような鈍感な乙女と、そんな彼女の外堀を埋め続ける先輩とのささやかなやりとりには、読んでいるこっちもくすっとさせられては悶えるような、何とも心地いい変な気分になる。
また、作品中に出てくる「おともだちパンチ」や「韋駄天コタツ」など、個性的なワードと奇想天外な事件の数々が物語を彩っていく。
なんだか対照的に思える二人の視点で描かれる世界だけども、どちらも共通して森見登美彦さんから放たれるユーモラスな言葉たちで表現されていて、読み終わった後にはいつの間にやら森見ワールドの不思議な世界観にひたひたにされている。
まぁ何はともあれ、黒髪の乙女が可愛らしいのだ。
そして読んだらしかるのち、夜の散歩へと繰り出せばいい。
では次回。