カタコトニツイテ

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「十二国記 月の影 影の海/小野不由美」の感想と紹介

100.十二国記 月の影 影の海/小野不由美

 

「裏切られてもいいんだ。裏切った相手が卑怯になるだけで、わたしの何が傷つくわけでもない。裏切って卑怯者になるよりずっといい」(下 p.84)

 

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

 

 

地図にない異世界へと連れて来られた主人公が、怒涛のごとく押し寄せる苦難の連続に立ち向かっていく、小野不由美による十二国記」シリーズの第一作目となる壮大な異世界ファンタジー

 

現実世界で真面目な女子高生として普通の生活を送っていた主人公の陽子のもとに、ケイキと呼ばれる金髪の男が突如として現れた事から物語は始まる。

 

彼に連れてこられた異世界である十二国は現実世界とは異なり、妖魔と呼ばれる怪物が存在し、子どもは母親のお腹ではなく「里木」と呼ばれる木についた「卵果」と言う実から生まれる。

 

そして、最も重要なのが十二国にはそれぞれ王が君臨しており、その王は麒麟と呼ばれる天からの使いである霊獣によって選ばれるという事。

 

麒麟は天命を受けて、民を導く王を任命する。
選ばれた王は神の力を授かり、国を治めて民を統治する。

これまでの世界とは異なるルールで動いている世界の中で
何も分からずに連れてこられた陽子は想像を超えた困難に何度も遭遇する。

 

信じた者に裏切られ、自らの弱さを突き付けられ
気づけば彼女は絶望の淵に立たされてしまう。

 

この物語の魅力は何といっても
その緻密に構成された十二国と呼ばれる世界観の魅力。

 

この世界では王が悪意を働けば麒麟は病に倒れ王は力を失い失墜し国は荒れる。
ファンタジー世界だからと言って何でもありな世界ではなく
多くの代償を払った上で成り立つ世界でもある。

 

そして、そんな不思議な世界において、たった一人で生き抜いていく陽子の感情の機微がどこまでもリアルに描かれている部分もこの物語の特徴。

 

彼女は決して強いわけではないし、何度も人に裏切られることで心が悪に染まってしまいそうになる。それでも、理不尽に連れてこられた世界に抗いながら、信じられる者との出会いによって生きることを諦めずに成長していく。

 

この物語は途轍もなく壮大な物語である十二国記シリーズの序章にすぎない。上巻は苦しい展開が続くけども、きっと読み始めたらめくるページが止まらなくなるので、たっぷり時間があるときに眠れなくなるまで読んで欲しい物語。

 

では次回。