「でもな、人生については誰もがアマチュアなんだよ。そうだろ?」(p.277)
主人公の異なる四つの物語が並行して語られる中、それぞれの物語が交錯しては予想もつかない結末へとなだれ込む、伊坂幸太郎の群像劇。
盗んだ相手のもとに置手紙を残す泥棒。
新興宗教に魅せられ、教祖を神と崇める青年。
不倫相手との再婚を目論見ながら計画を立てる女性カウンセラー。
職を失い路頭に迷う最中、野良犬を拾う男。
伊坂作品屈指の人気を誇る泥棒・黒澤を始め、多種多様な人物が織りなす群像劇は読んでいても全く飽きないどころか、次々と起こるトラブルに読者自身がどんどん引き込まれていく。
そして、この物語では一つの軸としてバラバラ死体が登場するのだけど、壮大な事件として扱われるかと言えばそうでもなく、各主人公の間で厄介の種をまき散らしているのが面白い。登場人物たちはたまったもんじゃないだろうけど。
年齢も職業もばらばらの四人の視点から語られるそれぞれの物語が、作者の秀逸に張られた伏線によって、バラバラ死体と言う特異な物体を介しながらいつの間にか一本の線に繋がる。
まるで作中に出てくるエッシャーの騙し絵のように、出発点がどこだか分からぬまま読んでいると、最初は気づかなかった物語の接点が終盤に向かうにつれて巧妙に繋がっていたことに驚かされる。
登場人物たちの間で交わされる小気味いい会話も特徴的で、特に黒澤と佐々岡の言葉の掛け合いがシュールでお気に入り。
伊坂さんの作品は声を出して爆笑するって感じじゃなくて、合間にふふっと笑ってしまう感じ。多分、それが好きなんだろうな。