111.ありえないほどうるさいオルゴール店/瀧羽麻子
「でも音楽ってそういうものかもしれません。印象的な思い出の後ろで、鳴っている。反対に、その思い出を呼び起こすこともできる」(p.217)
お客さんの心に流れる音楽を聴き、世界に一つだけのオルゴールを作る店で起こる出来事を描いた、瀧羽麻子の短編小説。
北の街でオルゴール店を営む風変わりな店主には、人の心に流れる音楽が聴こえた。
耳の聞こえない少年やバンドでの夢を諦めて就職する女子高生、ピアノを弾くことに迷いが生じた少女。思い思いの悩みを携えながら、彼らは店に迷い込む。
そして、そんな店を訪れた人々は、店主から世界にたったひとつだけしかないオルゴールを受け取り、聞き過ごしてきた想いに耳を傾ける。
ふらっと訪れた、決して普段だったら入ることは無かっただろうオルゴール店。
おぼつかない足元を照らしてくれる灯火のような、魔法の小さな箱から流れる音と出会った彼らが前を見据えて歩いていく姿に心が温かくなった。
物語を通して店主の素性はあまり語られることはなかったけど、だからこそ一つ一つのエピソードに登場する人物たちの人柄や想いがすっと心に入ってきたような気がする。
おそらくこの物語の舞台となっているだろう、小樽の街にも行ってみたくなった。
運河のほとりにある小さなオルゴール店。探してみよう。
では次回。