カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「虹を待つ彼女/逸木裕」の感想と紹介

116.虹を待つ彼女/逸木裕

 

運ばれてくる死をそっと受け止めるように、晴はそのときを待った。(p.16)

 

自らが作成したリアルシューティングゲームの中で自殺したゲームクリエイターの女性の過去を追い求めていく、逸木裕の長編ミステリー。

 

ミステリ―でありながら、恋愛小説の側面も持つ。
そんなあらすじと表紙、タイトルに惹かれて。

 

2020年に死者を人工知能化するプロジェクトを立ち上げることになった主人公は、モデルとして6年前に劇場型自殺を果たし、カルト的な人気を誇る謎の女性を用いることを決める。

 

彼女の名は水科晴と言い、自身が開発したゾンビを撃ち殺すオンラインシューティングゲームを現実世界に反映させることで、最後は自らを標的に自殺を遂げていた。

 

主人公はそんな謎に包まれた晴の素性を調べるうちに、次第に彼女のパーソナルな部分に惹かれ始めるが、調査が深みに近づくにつれて命の危険を感じる出来事に出くわすようになる。

 

序盤から主人公のめんどくさい感じが如実に伝わる。ただ、そんな彼の冷めた性格が晴と言う謎の女性の内面的な部分に感化されていくことで、ほんの少しずつだけども変化していく。

 

いくつかの人物の想いが交錯するにつれて、この物語がどのように着地して終結するのか予想できないままラストまで突き進んでいった。
そして、最後は思いもよらぬ方向から綺麗に謎が解きほぐされ、物語は綴じる。

 

ミステリ―としての魅力にまぎれがちだけども、登場人物たちが知らぬ間に想いを抱き、感情がコントロールできなくなっていく姿が描かれた本作はまぎれもない恋愛小説だった。

 

では次回。