カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「さよならドビュッシー/中山七里」の感想と紹介

117.さよならドビュッシー/中山七里

 

「あたしも、勝ちに行きます。だから誰にも負けない武器をください」(p.166)

 

ピアニストを目指していた少女は火事による大けがによって夢を絶たれそうになりながらも、コンクール優勝に向けて過酷な試練に挑んでいく、中山七里の音楽ミステリ―。

 

第8回「このミス」大賞を受賞した作品。
ちなみに作者の名前をずっと読み間違えていた。

 

ピアニストを志していた主人公の遥は、同じようにピアニストを目指す従従妹のルシアとともにピアノのレッスンに明け暮れていた。

 

しかしある日、2人はともに祖父が住む離れに泊まっていた際に大火事に遭い、彼女は唯一生き残ったものの全身に大やけどを負ってしまう。

 

以前のようにピアノが弾けずに事故の後遺症を引きずる彼女だったが、天才ピアニストと呼ばれる岬先生に導かれ、もう一度ピアニストを目指すべく立ち上がる。

 

しかし、そんな彼女のもとには不吉な出来事が次々と起こるようになり、ついには犠牲者を生む事件が発生してしまう。

 

哀れみや妬みなどの感情が周囲に渦巻く、決して平たんなどではない茨の道を突き進んでいく主人公の執念は、まるでスポコン漫画を読んでるような感覚を読者に抱かせる。

 

もちろんミステリー部分も驚きをもたらしてくれる要素ではあるのだけど、主人公自身がこれから背負っていかなければならない自分を取り巻く環境や評価に対して、葛藤しながらも逃げないで立ち向かっていく姿には、個人的に奮い立たされるものがあった。

 

加えて、ピアノを弾くときの表現や鬼気迫る演奏シーンは、読んでいてもどんどん音の世界に惹きこまれていく。想像するしかない音楽も、それはそれで面白かったりするんだな。

 

では次回。