120 .ジェノサイド/高野和明
不幸というものは、傍観者であるか、当事者であるかによって、見え方はまったく異なる。(p.30)
イラクの戦地で戦うアメリカ人の傭兵と日本で薬学を学ぶ大学院生が、各地で人類の命運を賭けて国家が企てる陰謀に立ち向う、圧倒的なスケールで描かれる高野和明のエンタテイメント小説。
個人的に最もハリウッド映画化して欲しい日本の小説の一つ。
ドラゴンボールを実写化している暇があるなら、さっさと映画化して欲しい。
不治の病を抱える息子を案じながらも、上層部の命を受け戦火が広がるコンゴへと派遣された傭兵のイェーガーは、仲間と共に極秘任務に挑む。
時を同じくして、薬学部の大学院生であった古賀研人はウイルス感染症の博士であった父親が死後に残した「不治の病を治療する特効薬」に関する研究を発見し、戸惑いながらもその意思を引き継いでいく。
全く無関係に思えた二人の運命が交錯する中心に存在するのは、人類を震撼させる情報を含んだ「ハイズマンレポート」と呼ばれる機密文書。
何も知らないまま突如として巨大な権力を敵に回すことになった彼らは、各々が自らの使命を果たすため目の前の難題に命を懸けて立ち向かっていく。
息をつかせる間もない手に汗握る展開の連続には、寝る間も惜しむぐらい物語の世界観に没頭してしまう。また、アフリカの戦地で起こる戦いでは現実とリンクする場面も数多くある。
世界各地で起こる民族紛争。
異質なものを武力で取り除こうとする心理は、後に戦争の引き金となった。
この物語ではそんな「自分とは異なる未知の物体」に対する恐怖が生み出す拒絶反応が、どこまでも際限なく徹底的に行使された「もしも」の現実を突き付けてくる。
ちなみに、ジェノサイドと言うのは大量虐殺を意味する言葉。
勇敢な主人公たちの行動が変えようとした未来は、もしかしたら現代の延長線上でも起こりえるのかもしれないと、そう思わせられるほど衝撃的な作品。
では次回。