作る人が心をこめて握っているものを、国は違うとはいえわかってもらえないわけがないと信じていた。(p.46)
日本人女性がフィンランドの片隅で営む小さな食堂での日常を綴った、群ようこの日常小説。
最近、フィンランド在住の方のエッセイを読んだので、その流れで買ってしまった。
ちなみに映画も拝見。こっちも見ると、情景がイメージしやすいかも。
素朴でもいいから丹精をこめた料理を届けたいと思い立った主人公のサチエは、とあるきっかけからフィンランドへと一人旅立ち、ヘルシンキの街角で食堂を開く。
しかし、店を立ち上げたは良いものの、フィンランドの道をぼてぼてと歩くカモメにちなんで「かもめ食堂」と名付けられたその食堂に来るのは、日本オタクの陽気な青年のみ。
それでも、楽観的にお客さんが来るのを待っていたサチエのもとにある日、訳アリの日本人女性がやってくると、食堂での日々は少しづつ賑やかになっていく。
至って普通の人々が、フィンランドの街の片隅で送るゆったりとしたひと時。
ただ、決して考えなしに日々を過ごしているわけではなく、足踏みしながら、でも立ち止まらないように、過去の自分を顧みる。
この物語に登場する人々は、普遍的な日常がこれからも続いていくことが、心のどっかで不安だったのかもしれない。でも、だからこそ、最期は吹っ切れたような表情をした彼女たちが少し羨ましかった。
旅行だろうが放浪だろうが、何の気なしに旅に出るのは気持ち良いんだろうな。見ず知らずの土地へ飛び込んでいくことは、狭まった視界をすっと広げてくれるから。
まぁさっきは「至って普通の人々」と書いたけれど、フィンランドという異国の地にあてもなく単身で乗り込んでくる時点で、皆ちょっとおかしな人たちなのかもしれないな。
では次回。