カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「氷菓/米澤穂信」の感想と紹介

124.氷菓/米澤穂信

 

全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。(p.122) 

 

成り行きで高校の古典部に所属することになった主人公は、日常の中で起こる不思議な出来事を気の進まないながらも解き明かしていく、米澤穂信の青春ミステリ。

 

アニメ化もされた古典部シリーズ」の第一作目。
実は、米澤さんのデビュー作でもある。知らなかった。

 

何事も積極的に関わろうとしない「省エネ主義」をモットーに生きる高校生の主人公・折木奉太郎は、姉からの助言もあり、廃部寸前の古典部に入部することを決める。

 

しかし、一人で静かに過ごせると思っていた部室には、同じく古典部に入部希望であった千反田えるという少女が佇んでいた。

 

興味のある謎に対しては納得するまで解決しようとする、好奇心の塊のような彼女にたじろぎながらも、冷静に現状を分析する主人公は、高校生活の日常に潜む謎を淡々と解き明かしていく。

 

この作品では、青春の煌びやかな日常の裏側にあるような、どこか陰に隠れがちですぐに忘れてしまいそうな日常を、ふと、垣間見ることができる。

 

いわゆる「日常ミステリ」に分類される作品なのだけど、同ジャンルにありがちな「ほのぼの感」は個人的にはあまり感じない。会話の温度が低いような、でも若さゆえの愚直さも覗く、不思議な感覚。

 

ただ、あくまで「やりたくないことはやらない」スタンスの主人公が、古典部メンバーに振り回されながら、渋々謎を解決する様子はなかなかに微笑ましかった。諦めに近い心の声が漏れなく伝わる。

 

決して、謎を解いた後に爽快感だけが待ち受けているわけではなく、どこかほろ苦さを感じるような作風は、米澤さんの真骨頂。続きもおいおい。

 

では次回。