125.夏の庭/湯本香樹実
「だけどさ、ほんとは生きてるほうが不思議なんだよ、きっと」(p.113)
人が死ぬ瞬間をこの目で見たいと、名も知れぬ老人を観察していた子どもたちは、いつしか彼との深い交流を通して命の尊さに触れる、湯本香樹実の長編小説。
夏になったら読みたいなと思っていた作品。
何だか、懐かしい気持ちになった。
小学生の主人公たちはとある会話がきっかけで
「人が死ぬこと」に対して興味を抱く。
そこで彼らは、近所に一人きりで住んでいた老人を夏休みの間「観察」と称して見張ることで、死の瞬間を目の当たりにできるのではないかと考える。
最初は老人のだらしない生活の様子を怪訝に見つめていた主人公たちであったが、やがて、一緒にスイカを食べたり、家の片付けをしたり。そんな夏の庭で過ごす日々を通して、ただの見知らぬ老人として接していた子どもたちの心に変化が生まれる。
「死」とは、どういうものなのか。小さい頃はどう思っていたんだろうかと、今ふと思い返してみても、全く記憶に残っていない。
忘れているだけかもしれないし、考えたくなかったのかもしれない。
でも、この物語に出てくる主人公たちはそんな誰もが思うだろう疑問に対して、素直な感情で、そして残酷な純粋さを持って、自ら確かめようとする。
彼らにとって、この一夏の経験はきっと忘れがたいものになるのだろうし、それは老人にとっても同じだったはず。
両者が探り探りでありながらも、自らを取り巻く辛い環境や経験を少しづつ分かち合っている姿を見て、嬉しいような苦しいような、何とも言えない感情になった。
改めて、この本を今のタイミングで読めて良かった。
きっと子供の頃に読んでいたら、おじいさんの心の内に気がつかなかっただろうし、親になってから読むと、また違う感情を子どもたちに思ったかもしれない。
あと、スイカ食べたくなったな。
もちろん、ひと玉をみんなで分けて。
では次回。