カタコトニツイテ

ゆる~い本の感想と紹介をしています。想うこともつらつらと。

「風神の手/道尾秀介」の感想と紹介

127.風神の手/道尾秀介

 

「いま、あたしたちがここにいるんだから、しょうがないよ」(p.469)

 

遺影が専門の写真館である「鏡影館」に訪れた人々の過去と現在が描かれ、数十年にわたる歳月の中で起きた出来事を紐解いていく、道尾秀介の長編小説。

 

三つの章と一つのエピローグからなるこの作品では「鏡影館」が建つ街で起こった過去の出来事が回想混じりで描かれると同時に、現在に生きる彼らの姿も共に映し出される。

 

街を出て行くことになった少女と青年の純愛、不器用な少年たちの決死の行動、そして現在に生きる人々の答え合わせ。この世に起こる全ての出来事は、神様が風向きを変えてるとしか思えないような、偶然という言葉では収まりきらない繋がりを見せることがある。

 

道尾さんは、人間が心の底に漂わせている「影」を描くのが本当に上手。

 

それは決して特別なものではなくて、誰の心にもあるようなちょっとした僻みや妬み、錘のようなもの。誰もが心を軽くするために、吐き出したくなってしまうもの。ただ道尾さんが描く「影」というのは、人が本来もつ優しさや温かさの裏返しのように感じる時もある。

 

この物語の登場人物たちに時折、自らの選択を重ね合わせてしまうのは、そういった温もりをもった「影」をどこか自分にも映し出してしまうからなのかもしれない。

 

また、この物語を通して舞台となっている「上上町」「下上町」と言われる、川を隔てて並んだ二つの街の外観や、今に至るまでの歴史の積み重ねなども丁寧に描かれている。

 

夏は火振り漁と呼ばれる鮎取り漁法が盛んで、合間に大きな川が流れる街。
決して際立った特徴があるわけではない、小さな街。

 

それでも、そんな街で生きる人々の暮らしを通して、背景となる街の風景や文化などが丁寧に描写されているので、主人公たちの視点を通してこの街を体感しているような気持ちにさせられる。

 

ちなみに、自分は一章の「心中花」という作品が好きだった。
このひっくり返し方は、道尾作品ならでは。

 

では次回。