カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「幻夏/太田愛」の感想と紹介

128.幻夏/太田愛

 

罪を犯した人間は、方の下に正しく裁かれ、罪を贖うのだと。

だが世界は、自分たちの信じていたものとは違っていた。(p.65)

 

父親が人殺しだと打ち明けた少年はその夏の朝に姿を消し、その頃の記憶は現代で起こる少女失踪事件を追う主人公たちを翻弄していく、太田愛の長編ミステリー。

 

夏の最後に読んだ本。
二文字の言葉に、これでもかと惹かれる。

 

12歳の夏。少年は突如、気のおけない親友となった二人の兄弟とともに、かけがえのない日々を謳歌していたが、夏の終わりの日、兄のほうは多くの謎を残して忽然と姿を消した。

 

成長して警察官となった少年は、現代の少女失踪事件を追う最中、23年前の夏に姿を消した親友の元に残された手がかりと同様の印を、事件現場で発見する。

 

多くの人物の視点が入れ替わり、それまでに残された伏線が一様に繋がっていく。
やっと真実に辿り着いたと思ってからも、何度も騙された。

 

ただ、丁寧に謎が紐解かれていく中でも、最後の最後まで何がどう転ぶか分からない緊迫感を感じさせられる。多くの思惑が絡み合って、筋書きが何度も書き換えられる感覚。

また、この作品では、現代日本に蔓延る司法制度の矛盾に焦点を当て、自白の強要や冤罪事件などの「正義に伴われる犠牲」にも向き合っている。

 

それぞれの登場人物たちから漏れ出る心の声は、まさに現代日本の縮図のようで、見えない顔の向こうではきっと誰かが考えていることなんだろうと思う。一概に否定はできない。

 

だけども、幼い子どもたちや無実の者たちが背負った業は、本来存在し得なかったものであり、さらには、誰の背に降りかかってくもおかしくない火種でもある。

 

十人の真犯人を追い詰めている傍らで、一人の無辜の火種が燻り続けているのだとしたら、それは根本的な構造から変えていかなければならないのかもしれない。

 

それにしても、次を読ませる力が凄まじい。
気づいたら4時間くらい経ってたわ。

 

では次回。