カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「紅蓮館の殺人/阿津川辰海」の感想と紹介

134.紅蓮館の殺人/阿津川辰海

 

「名探偵でいたいなら、優しくなんてない方がいい」(p.277)

 

山火事が迫る館の中で突如として起こった殺人事件の渦中で、彼らは探偵としての宿命に葛藤しながらも真実を解き明かそうとする、阿津川辰海本格ミステリ


真っ赤に燃える表紙が印象的。
なんと作家の方は1994年生まれの二つ歳上。
これからは年下の人とかもたくさん目にするんだろうな。

 

探偵という存在に憧れながらも、生まれ持った探偵としての素質を備える同級生の葛木と出会ったことで、自らの夢に諦めをつけた主人公は彼の助手として生きる道を選ぶ。

 

そんな二人は、高校の勉強合宿を抜け出して隠棲した文豪が住むという山中の館を目指している途中、不運にも大きな山火事に遭遇し、頂上の館に避難することになる。

 

しかしその場所では、不可解な行動をとる住人や遭難者たちとの出会い、かつて憧れた名探偵との邂逅、そして遂には誰もが想像し得なかった殺人事件が起きてしまう。

 

疑心暗鬼になる彼らはやがて、探偵としてのあるべき姿を問われることになる。
真実を蔑ろにして命の救出を優先するか、命をかけて真実を追い求めるのか。

 

各登場人物たちの視点から描かれる探偵としての宿命とそれに伴う代償は、憧れだけではどうにもならない不条理さを否応なしに突きつける。言うならば人の命を天秤にかけているような立場なのだから、それは当然と言えるのかもしれないけど。

 

また、現実の延長線上では出会うことのない物語ではあるので、あまり共感を覚えるようなシーンや登場人物はいなかったのだけど、合宿を抜け出したくなる気持ちは痛いほど分かった。一度はしてみたいよね。

 

では次回。