136.ガラスの海を渡る舟/寺地はるな
わたしたちは広い海に浮かぶちっぽけな一艘の舟のように頼りない。それでもまずは漕ぎ出さねば、海を渡りきることはできない。(p.208)
祖父の死をきっかけに受け継いだガラス工房で働く二人の兄妹は時にぶつかりながらも、お互いの気持ちを理解するにつれて少しづつ成長していく、寺地はるなの長編小説。
それまで全くと言っていいほど相容れなかった二人の兄妹は、祖父の死によって宙ぶらりんとなったガラス工房を思いもよらぬ形で引き継ぐことになる。
足並みを揃えた行動を取ることが苦手な兄の道。
「特別な何か」が欲しくて思い悩む妹の羽衣子。
性格が異なる二人の兄妹は何度も喧嘩を繰り返す。相手の気持ちを理解しきれず馬鹿正直に言葉を放つ道に対して、羽衣子はなぜ普通の行動ができないかと問い正す。
しかし、二人はガラス工房でともに働くにつれて、傍から見てるとなんて不器用なんだろうと思いつつも、徐々にお互いの気持ちを受け止めながら想いを共有し始める。
個人的なことだけど、自分は羽衣子の方にとても感情移入してしまう。
平均的なことは卒なくこなせるのに、憧れるような突出するものに手は届かない。
悔しさと寂さが入り混じった、どこにもしまうことのできない気持ちが痛いほど分かる。
それでも、道は羽衣子の自分の感情に正直なところを、羽衣子は道の「特別な何か」を最初から信じて疑わない。いがみ合ってはいてもぶれずに信頼し続ける彼らの姿に、なぜだか誇らしげな気持ちになった。
また、印象的だったのは作中で出てきた「思い出は遠くなる」と言う言葉。無くなるわけではないので、形に残すことによって思い出は記憶に留まることができる。その言葉に、少し安心してしまった。
あと、単純だけど吹きガラス体験をしてみたくなったなぁ。二人が見ていた景色、見えない海を一艘の小舟で渡る時のような不安と期待が入り混じった感覚を知りたくなった。いつか。
では次回。