139.元彼の遺言状/新川帆立
「完璧な殺害計画をたてよう。あなたを犯人にしてあげる」(p.56)
弁護士の主人公は莫大な遺産の分け前を手に入れるべく、元彼が言い残した奇妙な遺言状から始まる一大騒動に首を突っ込んでいく、新川帆立の長編ミステリ。
第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
著者の新川さんを知ったのは、テレビでやってた「セブンルール」を見たのがきっかけ。
物怖じしない態度と自らの欲望に正直な性格で、若き身空ながら弁護士として優秀な実績を積み重ねていた剣持麗子はある日、昔付き合っていた男が亡くなったという知らせを受け取る。
当初は戸惑いを隠せなかったものの、実は彼が大企業の御曹司であることが発覚し、さらには遺言状に書かれていた「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」と言う言葉が世間の波紋を呼んだことから、彼女もその騒動に欲望のまま飛び込んでいくことになる。
普通のミステリー小説であれば「真犯人を探す」という前提のもと進んでいくはずが、この物語では「自らの依頼人を犯人に仕立て上げる」と言う突飛な出発点から始まっていくのが何とも斬新。
犯人選考会での冷静沈着な駆け引きや、第一印象は良くないのにどこか憎めない登場人物たちが繰り広げる一波乱は、良い意味でミステリー小説らしからぬエンタメ性に富んでいた。
そして何より、主人公の貪欲で負けん気の強い性格を少しづつ読者に馴染ませながら進んでいくストーリー展開が素晴らしかった。初めは少しとっつきにくく感じるキャラクターだったのが、物語が進んでいくにつれてどんどん親しみを覚えていく。
ジャンルとしてはミステリーなのだけど、遺産相続や株式などの専門用語が飛びかっているにしては堅苦しい雰囲気を感じずに読めるので、ミステリーが苦手な人でも読みやすいかもしれない。
では次回。