141.丸太町ルヴォワール/円居晩
「言の葉を吹いて、寿と為す、だから言吹き。君に相応しい呼び名だろう?」(p.73)
とある屋敷で起きた事件の裏側で繰り広げられていた謎の女との魅惑的な邂逅が、古より京都で行われていた私的裁判の幕を開く、円居晩の長編ミステリ。
本屋でふとあらすじを読んでから、ずっと気になっていた作品。
案の定、好みな作品だった。裁判をテーマにした作品にハズレなし。
京都の大学へと進学した御堂達也は、中学からの先輩である額賀流に半ば強制的に誘われ、古来より京都で執り行われていた「双竜会」と呼ばれる私的裁判へと参加することになる。
その目的は、祖父殺しの嫌疑をかけられていた御曹司である城坂論語という少年の無実を晴らすことであった。
様々な状況証拠が彼を犯人だと指し示す中、唯一のアリバイであったのが、事件の最中に部屋へと侵入していた「ルージュ」と呼ばれる女性と過ごした時間。
しかし、彼女が実在したという痕跡は霧に包まれたように跡形もなく消え去っていた。
そんな劣勢な状況下で主人公たちは、一筋縄ではいかない敵の勢力の追及に対抗すべく、論語の無実を証明するために「ルージュ」の正体を明らかにしようとする。
古き京都の地を舞台に繰り広げられる裁判は、一見すると古めかしい印象を抱かせるものの、登場人物たちによる現代的でコミカルな会話もあって、むしろ騒がしいぐらいだった。
見ていた景色が一変するような仕掛けなど、ミステリとしての醍醐味もありながら、一人の少年がひと時を過ごした謎の女性を一途に追い求めては幻惑される姿に、とても焦ったい気持ちにさせられる。
物語の綴じ方も、個人的に望んでいた結末で嬉しかった。
そして、登場人物たちのキャラクターも軒並み濃かった。
では次回。