カタコトニツイテ

ゆる~い本の感想と紹介をしています。想うこともつらつらと。

「ダック・コール/稲見一良」の感想と紹介

146.ダック・コール/稲見一良

 

リョコウバトという鳥は、過ぎ去ったある時代の天空を翔ぬけたパッセンジャーの大集団であり、サムという名の一青年は、今はもう還ることのないある時ある所の、豊穣の自然に触れることのできた幸運者であり、彼もまた時の流れの一隅を通りかかった独りのパッセンジャーだった。(p.94)

 

石に鳥の絵を描く男と出会った青年は、鳥と男たちによって紡がれる6つの物語の夢を見る、稲見一良の異色の短編集。

 

ずっと読みたかった稲見さんの物語。
タイトルのダック・コールには、鴨笛という意味がある。

 

味気のない無味乾燥な毎日を送っていた主人公は、新鮮さと驚きを求めて飛び出した旅路の果てに、石に野鳥の絵を描く一人の男と出会う。

 

彼が石に描いた様々な鳥たちを眺めているうちに微睡んでしまった主人公は、鳥にまつわる6つの物語に思いを馳せる。

 

大量の鳥たちが狩られる現場に居合わせた青年、密猟に憧れた初老の男と類い稀なる狩りの才能をもった少年の冒険譚、山に逃げた脱獄囚を追う男たちのスリリングな攻防戦。

 

時代も、国も、歳の数も。何もかもが異なる舞台において、変わらずに物語を彩るのは、豊富な知識を携えた著者によって生き生きと描かれる野鳥たちの姿。

 

絶滅するリョコウバトの群れ、山中に響くホイッパーウィルの合唱、流木に佇むグンカンドリなど、物語の中に確かに息づく鳥たちの姿が、幻想的な世界観でありながら、どこか現実と地続きになっているような不思議な感覚を呼び起こさせてくれる。

 

自然界の美しさと人間の愚かさを切り取ったパッセンジャー「ホイッパーウィル」の話が個人的に好きだった。人間と鳥の関係性について考えさせられる。

 

鳥類史上最も多く生息していたにも関わらず、何百億という数が人の手によって乱獲され、百年余りで絶滅の一途を辿ったリョコウバト

 

オーデュボンによって描かれたひとつがいのリョコウバトの姿は、もうこの世に存在しない現実の残酷さと対比されることで、一際美しく見えるのかもしれない。

 

では次回。