「アニメが好きなんだよね」と、彼は言った。
「どうしようもなく好きなんだから、だからもう、どうしようもないよね」(p.540)
鮮烈な覇権争いが繰り広げられるアニメーション業界の中で、無我夢中で奮闘する様々な人々の姿が描かれる、辻村深月の長編群像劇。
最初に小説を読んだのは随分と前のことなのだけど
最近、実写映画を見たので改めて書いてみる。
1クールに50本ものアニメが放映される中で、その頂点を目指すべくアニメーション業界で働く彼らは、作品に全身全霊を賭けて「ハケンアニメ」を争う。
作品を一から作り出す監督、その監督によって作り出された世界や人物を絵に映し出す作画、そしてその作画されたキャラに命を吹き込む声優、そんな彼らを束ねながら作品を宣伝するありとあらゆる業務をこなすプロデューサー。
他にも脚本家、編集、撮影、色彩、美術、さらにはグッズやフィギュア、聖地巡礼を企画する担当者など、多くの人々が様々な形で関わりながら、一つの作品を創り上げていく。
自分たちは完成された作品しか見ることはない。
それでも、出来上がった30分の映像を、13話のアニメシリーズを、2時間の映画をその目で見て、一喜一憂しながら物語を十二分に楽しむことができる。
ただ、その作品の裏側には、顔の出ない多くの仕事人たちがいる。
そして、その誰もが作品に並々ならぬ情熱と誰にも負けない愛を注いでいる。
作品を後方から支える彼らの姿は、決して脚光を浴びることのない裏方だとしても、好きな作品を作ることに時間も労力も厭うことなく、確固たる想いをぶつける真っ直ぐな感情で溢れていた。
創作に携わる全ての人々を肯定してくれるような作品なので、アニメにあまり興味を抱いて来なかった人にも、ぜひ、読んで欲しい。
では次回。