光り輝く柔らかい絹のはごろものようなものを指先で確かにつかんだはずなのに、たぐりよせた手を開けば空っぽ。(p.289)
海の側にひっそりと佇む港町を舞台に、三人の女性の視点から息詰まる街の空気感や人間関係の歪みが描かれる、湊かなえの長編ミステリー。
実は「イヤミス」と呼ばれるジャンルが少し苦手で避けていたこともあり、湊かなえさんの作品を読むのは初めてだった。
太平洋を望める美しい景観を持ちながら
どこか寂れた雰囲気が漂う街、鼻崎町。
そんな街である日、町おこしの企画としてイベントの準備をすることになった一同の中でも、とあるきっかけから3人の女性は仲を深めることになる。
事故により車椅子生活を余儀なくされた娘を持ち、嫁ぎ先の仏具店で粛々と働く菜々子、転勤により鼻崎町にやってきたものの、東京生活への未練が日に日に募る光稀、そして、岬近くの高台に並ぶ「芸術村」で陶芸に勤しみながら、街の素晴らしさを世に発信したいと夢見るすみれ。
彼女たちの思惑はイベント中に発生した火災事故が契機となり、とあるブランドの設立へと繋がっていくが、やがて彼女たちを取り巻く環境はじわじわと歪み始めていく。
まるで漣が立つように広がっていく軋みが、誤魔化しの効かない綻びへと連鎖していく様は、物語が取り返しのつかない方向に向かっていく予感を漂わせていた。
また、それぞれの主観では、些細な言動に対する抵抗や嫌悪感が事細かに示されているので、余計に彼女たちの揺るぎない意思が浮き彫りになっていて、人間関係が壊れていく瞬間を目の当たりにさせられた。「ぎすぎす」という言葉がよく似合う。
何よりも、街に残る閉塞感や人間関係の不和に何とも言えないリアリティが付随していて、現実との差異や違和感をほとんど感じなかった。この世のどこかに存在しているだろうと思わせられる世界観。
個人的に、最後にるり子が放った言葉は
様々な感情を綯交ぜにしたような人間味に溢れていて良かった。
結論として、他の作品も読んでみたい。
読まずに避けるのは良くない、と身をもって実感。
では次回。