160.木漏れ日に泳ぐ魚/恩田陸
彼の目が宙を泳ぐ時、私はいつも木漏れ日が揺れるのを見る。(p.105)
これから別々の道を歩むことになる二人の男女が、アパートの一室で共に過ごした過去の記憶を擦り合わせながら一つの事件について語り合う、恩田陸の長編小説。
改めて、印象に残る綺麗なタイトルだと思う。
非現実的なのに、情景が頭の中に浮かんでくる。
ある日の夜、二人の男女はそれまで暮らしていた、明日からはもぬけの殻となる部屋で最後の夜を過ごす。
張り詰めた空気が漂う中、それぞれが互いの腹の中を探りながら、過去に起こった出来事や二人で過ごした日々の思い出を回想する。
冒頭はまるでピントのずれたレンズのように、話の行く末に全く焦点が合わないまま、読者はぼやけた輪郭に対して必死で目を凝らしながら物語を読み進めていく。
なぜ、彼らは別々の道を歩むことになったのか
なぜ、互いのことを疑っているのか
そして、事件の真相とは何なのか。
二人の会話劇と心理戦が繰り広げられる中で、徐々に物語の全貌が明らかになっていくにつれて、彼らの関係性と思いもよらぬ事実が浮かび上がってくる。
また、それぞれがお互いを鏡のように映し出しながら、自らの心の奥底で内省する一連のストーリーを通して、二人の男女の心の変化が丁寧に描かれているのが印象的だった。
男女の価値観の違いが顕著に現れている作品だと感じたので、読む人によって全く異なる感想が出てきそうだなぁとも。
では次回。