177.ジヴェルニーの食卓/原田マハ
先生はひと目ぼれをなさるんだそうです。窓辺の風景に。そこに佇む女性に。テーブルの上に置かれたオレンジに。花瓶から重たく頭を下げるあじさいに。(p.36)
近代美術の礎を築き上げた4人の芸術家の、紆余曲折した人生の中に存在したほんのひと時を鮮やかに描いた、原田マハの短編小説。
ジヴェルニーで色とりどりの花々が咲き乱れる庭に囲まれながら、青空の下で絵を描き続けたクロード・モネの生涯を、モネを支えた義理の娘であるブランシェの視点から描いた表題作を始め、4つの物語ではそれぞれの芸術家たちが魅せる素顔を垣間見ることができる。
アンリ・マティスと過ごした召使いの女性の幸せなひと時。
エドガー・ドガが求めた芸術を目の当たりにした女性画家の想い。
若きポール・セザンヌを支えたタンギー爺さんの半生。
彼らが歴史の中で過ごした日々。それは、読者でもなく、著者でもなく、芸術家たちのそばで見守っていた女性たちの温かな眼差しから、彼らが確かに生きたであろう姿が映し出される。
また、どの物語でも、芸術家たちが歩んできた軌跡が、色鮮やかな花々、時代を象徴する絵画、そして彼らが過ごしたフランスの美しい街並みに彩られて、丁寧に綴られていた。
この物語は、歴史の一部となった偉人たちの記録でありながら、そういった歴史には刻まれていない、その時代を生きた人々の記憶を辿った先にある、芸術家たちのありふれた生活であったり、飾らない想いであったりするような気がする。
芸術に詳しいわけではないけれど、彼らが見てきた風景や景色、世界を閉じ込めた絵を自身の目で見てみたい、そう自然と思わせられるような作品だった。
では次回。