「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」(p.12)
国から国へと移動しながら旅をする一人の人間と一台のモトラドは、各地で世界の不条理さを目の当たりにする、時雨沢恵一の冒険ファンタジー。
短編形式で非常に読みやすいが故に、どこまで読んだのか分からなくなる。
だから、もう一度、最初から読み進めて行こうと思い立った。
2丁の拳銃を器用に使いこなす旅人キノは、言葉を話す二輪車エルメスとともに、国から国へと移動を続けながら各地を放浪する。
彼らが訪れるのは、様々なルールのもとに成り立つ国。
人の痛みが分かる人々が住む国、何もかもが多数決で決まる国、長く続いた戦争が終わり、平和になった国。
一見、理想的な世界に見える国々で過ごすキノとエルメスだったが、滞在している間に少しずつ街や人々の様子に違和感を感じるようになる。
それぞれのエピソードで語られる物語は、まるで古くから伝わる寓話のようで、美しさに隠れた醜さが露わになるにつれて、どこまでも世界は表裏一体で成り立っているのだと、乾いた感情に苛まれてしまう。
それでも、どこか俯瞰的な目線と達観した面持ちで世界を眺め、そして、時に感情的になってしまうキノと、場の空気を和ませながらキノを見守るエルメスの姿を見ていると、旅路の果てにある美しい世界を少しだけ信じてみたくなる。
では次回。