カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「恋する寄生虫/三秋縋」の感想と紹介

196.恋する寄生虫/三秋縋

 

何から何までまともではなくて、しかし、それは紛れもなくそれは恋だった(p.6)

 

社会から隔絶された二人の男女は、秘密を共有しながら行動をともにするうちに恋に落ちるが、やがてその恋は虫によってもたらされたものだと知らされる、三秋縋の恋愛サスペンス。

 

友人に勧められた一冊。
各章のタイトルは全て「虫」に擬えられている言葉で構成されていた。
好き去ったのは冬虫夏草

 

度を超えた潔癖症によって、仕事を辞めざるを得なくなった主人公の男は、違法なコンピュータウイルスを作成していたことを嗅ぎつけた男から、犯罪行為をばらさない代わりにある仕事を依頼される。

 

それが、髪を金色に染めて学校にも行かず、常にヘッドフォンをかけている、とある17歳の少女と友達になること。

 

計画的に出会わされた失業中の青年と不登校の少女は、最初こそ互いを訝しんでいたものの、秘密を打ち明け、社会復帰に向けて共に過ごすうちに、彼ら二人の間には歳の差を超えた恋愛感情が生まれていく。

 

しかし、その恋が成就するかと思われた最中、主人公は彼女と自身の体に隠された「虫」が「恋」を引き起こしているという、衝撃の事実を明かされることになる。

 

たった一つの事実によって、確固たる意思が揺らいでしまう登場人物たちの行動は、いかに人の恋感情が脆く儚いものであるかを示しているかのようだった。

 

それでも、寄生虫による病から逃れるように、二人が自らの意思選択を疑いつつも、恋の感情を何度も解釈しようとする姿を見ていると、なぜだか非合理的で感情的な恋だったと信じられる気がした。

 

また、この物語では、学術書かと疑うくらい「虫」に関するあらゆる知識が記されていて、虫たちの行動原理となる合理的な考え方が興味深かった。

 

では次回。