199.殺した夫が帰ってきました/桜井美奈
ずっと、こんな日が来ることを恐れていた。だけど不思議と頭の片隅で、こんな日が来るかもしれないと覚悟もしていた。(p.16)
かつて崖から突き落としたはずの夫が目の前に現れた日を境に、登場人物たちが抱えた秘密は暴き出されていく、桜井美奈の長編ミステリ。
展開がスピーディで読みやすいので
気楽に手にとってみて欲しい一作。
都内のアパレルメーカーに勤務している主人公は、取引先の男からしつこく言い寄られた挙句、家の前まで追いかけられ襲われそうになるが、そんな彼女をすんでのところで救ってくれたのは、かつて殺したはずの夫だった。
自身への態度も、性格さえも一変していた夫に対して、初めは戸惑って訝しんでいた主人公だったが、一緒に暮らしていくにつれて、彼との生活に不思議と安心感を抱くようになる。
物語が進んでいくにつれて次々と露わになる真実は、愛に翻弄され、罪を背負った人々が生きるために、どんなものと引き換えにしてでも、一生抱えていかなければならないものだった。
だけど、大事なものを犠牲にまでして手に入れたものを
微動だにせず、いつまでも持っていられるだろうか。
落としてしまえば楽になれると囁かれながら
それでもなお、掴んで離さずにいられるだろうか。
震える体を必死に抑え込んで、何事もなく生きていくことを是とする世界なのだとしたら、あまりにも救いがない世の中だと感じてしまうな。
では次回。