「【くちびるに歌を持て、ほがらかな調子で】ってね。それをわすれないで」(p.27)
五島列島にある小さな中学校に通う少年少女は、共に歌う合唱を通して秘めた悩みや想いを共有していく、中田永一の青春小説。
長崎県に浮かぶ島国、五島列島。
ある日、島に東京から音大を卒業した美人のピアニストがやってくる。
そんな彼女が代理の顧問となった中学校の合唱部では、様々な想いを抱えた少年少女たちが集い、Nコンと呼ばれる全国合唱コンクールを目指すことになる。
しかし、多感な時期を過ごす彼らにとって、男女混声の合唱はすれ違いを繰り返し、等身大な想いが幾度となくぶつかってしまう。
ただ、そんな状況の中でも、赤裸々に綴られる登場人物たちの「未来の自分への手紙」は、どこにも吐き出すことのできない悩みの拠り所であると同時に、勇気を出して想いを放った初々しい言葉でもあって、物語の風向きを緩やかに変えていく。
また、そんな瑞々しい青春物語の裏には、著者の別名義でもある乙一作品を彷彿とさせるような細やかな伏線が張り巡らされており、終盤にかけてじわじわと湧き上がるような驚きをもたらしてくれた。
ちなみに、この物語では音楽コンクールの課題曲として、実際にNコンの課題曲となったアンジェラ・アキさんの「手紙〜拝啓十五の君へ〜」が登場している。
改めて歌詞を見ながら聴くと、なかなか心にくるものがあるので、読み終わった後に合唱バージョンで聴いてみて欲しい。
では次回。