292.イン・ザ・メガチャーチ/朝井リョウ
誰かが作った後付けの価値観の中で、ずっとスタンプラリーをしているだけ。そして、そのスタンプを溜めるほどに得られるご褒美は、作られた価値観をさらに深く信じ込むための薬物としても働く。(p.243)
ファンダム経済の中に取り込まれていく三者三様の人々の視点から、現代社会の連帯と人の心を動かす物語が生み出す功罪を炙り出す、朝井リョウの2026年本屋大賞受賞作。
レコード会社勤務の中年男性、留学生との交流サークルに所属する女子大生、推し活を生きる糧にして生活する契約社員の女性。
まったく異なる距離感で「アイドル」と接してきた3人が、それぞれの立ち位置と入れ込み具合を急激に変化させながら、心の奥底に秘めた希望や欲望に忠実な物語に、意図せずとも飲み込まれていく。
登場人物の視点が変わるたびに、冷笑と熱狂を行き来しながら嫌でも感じる温度差。
ひとひらの花びらまで作り込まれた造花のようなエピソードが差し込まれる前後の変化を目の当たりにするたびに、上から目線でカテゴライズされたまま、手のひらで踊らせれる人々の姿が脳裏に浮かんだ。
物語がもつ魔力と仕組みが社会と経済のあらゆる場所で応用される現代において、緻密に計算された仕掛けを俯瞰する人すらも、いつのまにか舞台に上げられている感覚がある。
人の心を操るなんて簡単だと思われているのも癪だけど、朝井リョウさんなら人の心を意のままに掌握するなんて造作もないことなのかもしれない。
では次回。






