胸に抱いていた悩みか、怒りか、はたまた絶望か。そんな、割り切れず、はけ口もない感情があったはずだ。(p.168)
とある銀行の支店で起こった不可解な現金紛失事件をきっかけに、さまざまな銀行員の視点から行内に漂う不穏な空気と隠された秘密が露わにされていく、池井戸潤の連作短編集。
10人の異なる銀行員が語り手となり、東京第一銀行・長原支店を舞台に繰り広げられる人間ドラマとそれぞれが抱える苦悩が描かれる群像劇となっている。
支店の成績、個人のノルマ、身近な人間関係など、一人ひとりが異なるプレッシャーに晒され、どこか張り詰めた空気が支店内を覆っているなか、突然、起きた現金紛失事件。
すぐに解決に至ったかのように見えたが、不可解な謎が残った事件は銀行内で尾を引き、やがて思わぬ事態を引き起こしていく。
さまざまな立場にいる人々の葛藤や行動の意図が描かれるなか、それぞれに共通しているのは自らだけでなく家族に対しての想いも持ち合わせていること。
リアリティの塊のような銀行内の会話や、具体的に描写される家族とのやりとりを見せつけられることで、自分自身も彼らと同じようにキリキリと胃が痛んできた。
第9話が本当に心にくる。
池井戸潤さんの作品のなかでも異色の物語かもしれない。
では次回。