カタコトニツイテ

ゆる~い本の感想と紹介をしています。想うこともつらつらと。

「ジェノサイド/高野和明」の感想と紹介

119.ジェノサイド/高野和明

 

不幸というものは、傍観者であるか、当事者であるかによって、見え方はまったく異なる。(p.30)

 

イラクの戦地で戦うアメリカ人の傭兵と日本で薬学を学ぶ大学院生が、各地で人類の命運を賭けて国家が企てる陰謀に立ち向う、圧倒的なスケールで描かれる高野和明のエンタテイメント小説。

 

個人的に最もハリウッド映画化して欲しい日本の小説の一つ。
ドラゴンボールを実写化している暇があるなら、さっさと映画化して欲しい。

 

不治の病を抱える息子を案じながらも、上層部の命を受け戦火が広がるコンゴへと派遣された傭兵のイェーガーは、仲間と共に極秘任務に挑む。

 

時を同じくして、薬学部の大学院生であった古賀研人はウイルス感染症の博士であった父親が死後に残した「不治の病を治療する特効薬」に関する研究を発見し、戸惑いながらもその意思を引き継いでいく。

 

全く無関係に思えた二人の運命が交錯する中心に存在するのは、人類を震撼させる情報を含んだ「ハイズマンレポート」と呼ばれる機密文書。

 

何も知らないまま突如として巨大な権力を敵に回すことになった彼らは、各々が自らの使命を果たすため目の前の難題に命を懸けて立ち向かっていく。

 

息をつかせる間もない手に汗握る展開の連続には、寝る間も惜しむぐらい物語の世界観に没頭してしまう。また、アフリカの戦地で起こる戦いでは現実とリンクする場面も数多くある。

 

世界各地で起こる民族紛争。
異質なものを武力で取り除こうとする心理は、後に戦争の引き金となった。

 

この物語ではそんな「自分とは異なる未知の物体」に対する恐怖が生み出す拒絶反応が、どこまでも際限なく徹底的に行使された「もしも」の現実を突き付けてくる。

 

ちなみに、ジェノサイドと言うのは大量虐殺を意味する言葉。

勇敢な主人公たちの行動が変えようとした未来は、もしかしたら現代の延長線上でも起こりえるのかもしれないと、そう思わせられるほど衝撃的な作品。

 

では次回。

「砂漠/伊坂幸太郎」の感想と紹介

120.砂漠/伊坂幸太郎

 

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」(p.18)

 

入学してすぐの新歓で出会った5人の男女は、限られたモラトリアムである大学生活の中で何気ない日々とちょっとした騒動を繰り広げる、伊坂幸太郎の青春小説。

始めて読んだのは高校生の時。あの頃は、本気で大学生活とは「こういうものなのか」と夢見ていた。結局、麻雀あんまりやらなかったけど。

大学生活が始まったのも束の間、新歓の場にいた5人の男女は、苗字の意外な共通点から麻雀をするために集められる。

周りを冷静に俯瞰して見る北村、世界を平和にするために麻雀の平和という役を目指し続ける西嶋、絶世の美女である東堂、大人しいながら超能力を使うことができる
そして、適当だけども皆を引っ張る鳥井

何の繋がりもなかったはずの5人の大学生はボウリングや合コンなど大学生ならではの遊びに参加したと思えば、斜め上をいく一悶着を巻き起こす。

それでも、いざこざを経ながら絆を深め合う彼らは、無為に過ぎていくはずだった大学生活を共有していく。もちろん、物語の合間にワンクッションのように挟まる麻雀も忘れない。

とにかく西嶋のキャラが魅力的だった。恥ずかしげもなく砂漠に雪を降らせることが出来ると堂々と宣言する彼は、現実に存在してそうでどこにもいない唯一無二。

この物語は永遠に続いていくものではなく、卒業して社会という名の砂漠に放り出されるまでの、ほんの少しの空白の時間を切り取って描かれる。

作中で「学生時代を思い出して懐かしがってもいいが、あの頃に戻りたいと考えてはいけない」という様なセリフがある。

でも、だからこそ、この物語を読むと一層、友達と暇を持て余しては当てもなく過ごした時間の一瞬一瞬が愛おしくなる。

もしかしたら、大学で出会った友人たちとも
いつかは疎遠になってしまうのかもしれない。

なんてことはまるでない、はず。

 

では次回。

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー/町田そのこ」の感想と紹介

118.夜空に泳ぐチョコレートグラミー/町田そのこ

 

あたしたちはこの広い世界を泳がなきゃいない(p.99)

 

 

ここじゃないどこかへ行きたいと願う気持ちに揺れ動きながら、今立っている場所で懸命に生きていく人々の姿を描いた、町田そのこの連作短編集。

 

最初に言っておくと、めちゃくちゃ好きだった。

ここ最近読んだ短編集で一番。タイトルも素敵。

 

理不尽に起こる出来事に耐えながら、狭い町の中で密やかに成長していく少年少女の姿を描いた表題作を始め、他4編も決して幸せいっぱいな日常が描かれるわけではない。

 

今立っている現在地で誰もが底知れぬ不安を抱えている。そして、遠くを見据え、迷いながらも一歩を踏み出す姿には、まるで水槽の中にいるかのような息苦しさを覚える。

 

それでも、例え彼らは水槽の中で一生を過ごすのだとしても、複雑な人間模様を必死にかき分けながら少しづつ大人になっていく。

 

また、それぞれの物語にはあっと驚く仕掛けが施されており、全ての短編を読み終わった後は、物語の中で生きる人々の一つ一つの想いにあてられて居ても立っても居られなくなった。

 

個人的に、町田さんの作品はどこか身近な場所で起きうる物語のような気がするのに、なぜだか現実味がないような、ある種の「浮遊感」をまとっている気がする。
不安と安堵が入り混じったような、そんな感覚。

 

今年の本屋大賞を受賞した「52ヘルツのクジラたち」が気に入った人は、この物語もぜひとも読んで欲しいな。きっと好きになるから。

 

では次回。

 

「さよならドビュッシー/中山七里」の感想と紹介

117.さよならドビュッシー/中山七里

 

「あたしも、勝ちに行きます。だから誰にも負けない武器をください」(p.166)

 

ピアニストを目指していた少女は火事による大けがによって夢を絶たれそうになりながらも、コンクール優勝に向けて過酷な試練に挑んでいく、中山七里の音楽ミステリ―。

 

第8回「このミス」大賞を受賞した作品。
ちなみに作者の名前をずっと読み間違えていた。

 

ピアニストを志していた主人公の遥は、同じようにピアニストを目指す従従妹のルシアとともにピアノのレッスンに明け暮れていた。

 

しかしある日、2人はともに祖父が住む離れに泊まっていた際に大火事に遭い、彼女は唯一生き残ったものの全身に大やけどを負ってしまう。

 

以前のようにピアノが弾けずに事故の後遺症を引きずる彼女だったが、天才ピアニストと呼ばれる岬先生に導かれ、もう一度ピアニストを目指すべく立ち上がる。

 

しかし、そんな彼女のもとには不吉な出来事が次々と起こるようになり、ついには犠牲者を生む事件が発生してしまう。

 

哀れみや妬みなどの感情が周囲に渦巻く、決して平たんなどではない茨の道を突き進んでいく主人公の執念は、まるでスポコン漫画を読んでるような感覚を読者に抱かせる。

 

もちろんミステリー部分も驚きをもたらしてくれる要素ではあるのだけど、主人公自身がこれから背負っていかなければならない自分を取り巻く環境や評価に対して、葛藤しながらも逃げないで立ち向かっていく姿には、個人的に奮い立たされるものがあった。

 

加えて、ピアノを弾くときの表現や鬼気迫る演奏シーンは、読んでいてもどんどん音の世界に惹きこまれていく。想像するしかない音楽も、それはそれで面白かったりするんだな。

 

では次回。

「虹を待つ彼女/逸木裕」の感想と紹介

116.虹を待つ彼女/逸木裕

 

運ばれてくる死をそっと受け止めるように、晴はそのときを待った。(p.16)

 

自らが作成したリアルシューティングゲームの中で自殺したゲームクリエイターの女性の過去を追い求めていく、逸木裕の長編ミステリー。

 

ミステリ―でありながら、恋愛小説の側面も持つ。
そんなあらすじと表紙、タイトルに惹かれて。

 

2020年に死者を人工知能化するプロジェクトを立ち上げることになった主人公は、モデルとして6年前に劇場型自殺を果たし、カルト的な人気を誇る謎の女性を用いることを決める。

 

彼女の名は水科晴と言い、自身が開発したゾンビを撃ち殺すオンラインシューティングゲームを現実世界に反映させることで、最後は自らを標的に自殺を遂げていた。

 

主人公はそんな謎に包まれた晴の素性を調べるうちに、次第に彼女のパーソナルな部分に惹かれ始めるが、調査が深みに近づくにつれて命の危険を感じる出来事に出くわすようになる。

 

序盤から主人公のめんどくさい感じが如実に伝わる。ただ、そんな彼の冷めた性格が晴と言う謎の女性の内面的な部分に感化されていくことで、ほんの少しずつだけども変化していく。

 

いくつかの人物の想いが交錯するにつれて、この物語がどのように着地して終結するのか予想できないままラストまで突き進んでいった。
そして、最後は思いもよらぬ方向から綺麗に謎が解きほぐされ、物語は綴じる。

 

ミステリ―としての魅力にまぎれがちだけども、登場人物たちが知らぬ間に想いを抱き、感情がコントロールできなくなっていく姿が描かれた本作はまぎれもない恋愛小説だった。

 

では次回。

「暗いところで待ち合わせ/乙一」の感想と紹介

114.暗いところで待ち合わせ/乙一

 

家の中にある暗闇と、外で感じる暗闇とでは、種類が違う。(p.51-52)

 

駅のホームで起きたある事件をきっかけに始まった、盲目の少女と殺人犯として追われる男の奇妙な同棲生活を描いた、切なさの代名詞である乙一のホラーミステリ―。


表紙だけ見ると怖そうだけども、そこまでホラー要素はない。

 

三年前に交通事故によって視力をなくした女性ミチルは、静かに独りアパートにて暮らしていた。

 

するとある日、自分一人しか住んでいなはずの部屋の中に他の人間の気配を感じるようになる。

 

それもそのはずでミチルの部屋には、近頃駅で起きた殺人事件の犯人として警察に追われていた男性アキヒロがひそかに身を隠していたのだった。

 

最初は見知らぬ人の気配に怯えるミチルだったが、身を守るため知らないふりをしているうちに、次第に同じ部屋で過ごす彼が悪い人ではないのかもしれないと思い始める。

 

そんな奇妙な同棲生活が進むにつれて、外の世界を拒絶するミチルの心情の変化やアキヒロが他人の部屋に潜むに至った理由が少しづつ解きほぐされ、事件の真相を交えて丁寧に描かれていく。

 

個人的には、序盤のそれぞれが部屋での立ち振る舞いを決めかねている、変に気まずくて緊張感のある共同生活の場面が好きだった。

 

一見すれば殺人犯と思しき人物と暮らすか弱い女性という構図のはずなのに、お互いの心情の揺れ動きが丁寧に描かれていることもあって、どこか和やかな気持ちにさせられる不思議な作品。

 

何よりこんなにも奇抜な設定であるのに、ここまで繊細な人間関係を映し出す物語に仕立てあげる乙一さんの発想力が凄まじい。誰も思いつかない。

 

では次回。

「ステップファザー・ステップ/宮部みゆき」の感想と紹介

115.ステップファザー・ステップ/宮部みゆき

 

仕事中に屋根から落ちてしまった泥棒が中学生の双子の兄弟に助けられたことから、彼らの父親として生活する日々を綴った、宮部みゆきのコメディミステリー。

 

これまた久しぶりの宮部みゆきさん。火車」「レベル7」以来。
ちなみにステップファザー継父と言う意味。

 

屋根から落ちて大けがをした主人公は中学生の双子の直と哲に助けられたものの、泥棒である弱みを握られたことから、嫌々ながらも彼らの父親役を務めるはめになる。

 

しかし、この中学生の双子たちがこれまた一筋縄ではいかない子供たちであり、主人公は何かと言いくるめられながら渋々頼みごとを引き受けていく。

 

またこの物語では、ただ彼らの生活がゆるやかに描かれるわけではなく、日常の中で遭遇する謎や事件にいつの間にやら巻き込まれることになる。

 

ライトなタッチで描かれる謎も魅力的なのだけども、何といっても双子と主人公の小気味いいテンポで交わされるユーモラスな会話が特長的。

 

ふざけて交互に言葉を繰り出す双子たちに翻弄され、仕方なく父親として接する手前、どこかその生活に親しみを持ち始める主人公の心中に共感を覚えては微笑ましくなる。

 

短編形式で非常に読みやすかった。

それにしても90年代の作品と知って驚き。

道理で携帯もスマホも登場しないわけだ。

 

では次回。