カタコトニツイテ

ゆる~い本の感想と紹介をしています。想うこともつらつらと。

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック」の感想と紹介

101.アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック

 

最終世界大戦後に放射能灰に汚染された地球でアンドロイド狩りを行う賞金稼ぎの主人公の苦悩を描く、フィリップ・K・ディックSF小説

 

一度聞いたら一生忘れないタイトル。後に残した功績も大きい。
また、映画ブレードランナーの原作としても有名な作品。

 

第三次大戦後の世界では、ほとんどの住民が火星へと移住し、戦争中に出現したその放射能灰によって動物たちが次々と絶滅したことによって、遺された地球に住む人々の間では生きている動物を所有することが一種のステータスとなっていた。

 

そんな地球で同じく戦時中に開発された「アンドロイド」の狩りを生業とする賞金稼ぎのリックは、本物の動物に憧れながらも屋上にいる人工の電気羊しか持ち得ていない生活を余儀なくされていた。

 

しかし、火星から逃亡してきた八体のアンドロイドの処理を引き受けたことから、彼の人生を変えるための命運を懸けた戦いが始まる。

 

この物語では、アンドロイドと呼ばれる人間にそっくりな見た目をしながらも人間とは区別された生物が登場する。

 

人間と異なる部分を探すのが難しいぐらい精巧に造られたアンドロイド。

戦いを経るごとにリックは、人間とアンドロイドの境目が徐々に曖昧になっていく。

 

決して形式上の分類では判断できないアンドロイドの人間性に苦悩しながらも、自らの使命に従って敵を殲滅していく姿に、読者側も本質的に「人間とは何なのか」を考えさせられる。

 

現在のSNSを示唆しているような描写もあり、現代的な設定を兼ね備えているこの物語が50年以上前の1968年に書かれたとは到底思えない。
ディックには未来が見えているのかも。

 

では次回。

「十二国記 月の影 影の海/小野不由美」の感想と紹介

100.十二国記 月の影 影の海/小野不由美

 

「裏切られてもいいんだ。裏切った相手が卑怯になるだけで、わたしの何が傷つくわけでもない。裏切って卑怯者になるよりずっといい」(下 p.84)

 

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

 

 

地図にない異世界へと連れて来られた主人公が、怒涛のごとく押し寄せる苦難の連続に立ち向かっていく、小野不由美による十二国記」シリーズの第一作目となる壮大な異世界ファンタジー

 

現実世界で真面目な女子高生として普通の生活を送っていた主人公の陽子のもとに、ケイキと呼ばれる金髪の男が突如として現れた事から物語は始まる。

 

彼に連れてこられた異世界である十二国は現実世界とは異なり、妖魔と呼ばれる怪物が存在し、子どもは母親のお腹ではなく「里木」と呼ばれる木についた「卵果」と言う実から生まれる。

 

そして、最も重要なのが十二国にはそれぞれ王が君臨しており、その王は麒麟と呼ばれる天からの使いである霊獣によって選ばれるという事。

 

麒麟は天命を受けて、民を導く王を任命する。
選ばれた王は神の力を授かり、国を治めて民を統治する。

これまでの世界とは異なるルールで動いている世界の中で
何も分からずに連れてこられた陽子は想像を超えた困難に何度も遭遇する。

 

信じた者に裏切られ、自らの弱さを突き付けられ
気づけば彼女は絶望の淵に立たされてしまう。

 

この物語の魅力は何といっても
その緻密に構成された十二国と呼ばれる世界観の魅力。

 

この世界では王が悪意を働けば麒麟は病に倒れ王は力を失い失墜し国は荒れる。
ファンタジー世界だからと言って何でもありな世界ではなく
多くの代償を払った上で成り立つ世界でもある。

 

そして、そんな不思議な世界において、たった一人で生き抜いていく陽子の感情の機微がどこまでもリアルに描かれている部分もこの物語の特徴。

 

彼女は決して強いわけではないし、何度も人に裏切られることで心が悪に染まってしまいそうになる。それでも、理不尽に連れてこられた世界に抗いながら、信じられる者との出会いによって生きることを諦めずに成長していく。

 

この物語は途轍もなく壮大な物語である十二国記シリーズの序章にすぎない。上巻は苦しい展開が続くけども、きっと読み始めたらめくるページが止まらなくなるので、たっぷり時間があるときに眠れなくなるまで読んで欲しい物語。

 

では次回。

「夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦」の感想と紹介

99.夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

 

私はその苦闘を「ナカメ作戦」と名付けた。これは、「なるべく彼女の目にとまる作戦」を省略したものである。(p.156) 

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

京都を舞台に黒髪の乙女と彼女に想いを寄せる先輩が、個性豊かな人々と騒動を繰り広げる、森見登美彦の恋愛ファンタジー

 

2017年には実写アニメ化もされたこの作品。
テーマ曲はASIAN KUNG-FU GENERATIONの「荒野を歩け」
物語にマッチしすぎて、夜歩いていると軽率に聴いてしまう衝動に駆られる。

 

夜の先斗町を練り歩き、下鴨神社の古本市を探索し、訪れた大学の学園祭では思いもよらない大役を任される。「なむなむ」が口癖の黒髪の乙女が歩く世界は、魅惑と驚きに満ち溢れていた。

 

そして、そんなキラキラとした黒髪の乙女の姿を追い求める先輩は、何とかして彼女と偶然を装って出会おうとするが、そのたびに変てこな事件に巻き込まれていく。

 

何度となくすれ違いながらも、巡り巡って黒髪の乙女との接点を保とうとする先輩の姿勢には感服の一言だった。ある意味清々しい。もちろん褒めている。

 

それでも、運命の出会いを果たしたとて「奇遇ですね」の一言で済ましてしまうような鈍感な乙女と、そんな彼女の外堀を埋め続ける先輩とのささやかなやりとりには、読んでいるこっちもくすっとさせられては悶えるような、何とも心地いい変な気分になる。

 

また、作品中に出てくる「おともだちパンチ」「韋駄天コタツなど、個性的なワードと奇想天外な事件の数々が物語を彩っていく。

 

なんだか対照的に思える二人の視点で描かれる世界だけども、どちらも共通して森見登美彦さんから放たれるユーモラスな言葉たちで表現されていて、読み終わった後にはいつの間にやら森見ワールドの不思議な世界観にひたひたにされている。

 

まぁ何はともあれ、黒髪の乙女が可愛らしいのだ。
そして読んだらしかるのち、夜の散歩へと繰り出せばいい。

 

では次回。

「天地明察/冲方丁」の感想と紹介

98.天地明察/冲方丁

 

星は答えない。決して拒みもしない。それは天地の始まりから宙にあって、ただ何者かによって解かれるのを待ち続ける、天意と言う名の設問であった。(p.219)

 

天地明察(特別合本版) (角川文庫)

天地明察(特別合本版) (角川文庫)

 

江戸の時代に日本独自の暦を作り上げるべく、想像を絶するほどの長い年月を捧げた主人公たちの「天」との大勝負を描いた、冲方丁第七回本屋大賞を受賞した長編時代小説。

 

徳川家綱が世を治める時代、碁打ち衆として徳川に仕えていた渋川晴海は、本職である碁よりも算術に一層の関心を抱いていた。

 

そして、大名相手に定期的に御城碁を打つ毎日を送る晴海のもとに舞い込んだある指令をきっかけに、彼の二十年以上にもわたる「天」を相手取った戦いの火蓋が切って落とされる。

 

それまで普遍として用いられていた暦を変える、改暦の儀。
歴史を変えうるほどの重大な責任を伴う事業。

 

その悲願を成就させようと、膨大な歳月をかけて様々な分野の人々が知恵を結集し、数多の苦難と挫折を乗り越えて、正確な暦を完成させるまでの道のりは余りにも果てしない。

 

そんな一大計画の責を負い、多くの仲間たちに期待や夢を託されながら、己の人生を懸けて改暦を成し遂げようとする主人公の生き様にとても感銘を受けた。

 

今では常識として現代に存在している暦だけども、先人たちが途方もない苦労と時間を積み上げて作り上げた末に、世の中に定着したものなのだ。
それも、今ほど測量技術が発展していない江戸の時代に。

 

いつの世も飽くなき探求心を持っている者が世の中を変えていくんだな。
これでもかと見せつけられてしまった。

 

では次回。

「風が強く吹いている/三浦しをん」の感想と紹介

97.風が強く吹いている/三浦しをん

 

「走るの好きか?」(p.16)

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

 

走るのを辞めなかった二人の少年が、陸上とは無縁の大学寮に住む住人たちと箱根駅伝を目指す、三浦しをんの青春小説。

 

それまで興味の無かった箱根駅伝を見るきっかけになった小説。
三浦しをんさんのまっすぐな熱さにはいつもやられる。

 

高校時代に怪我により挫折を味わった大学四年生の灰二にはある野望があった。

 

それは学生駅伝の最高峰である箱根駅伝に出場すること。
それも、陸上未経験のメンバーが揃う寮の住人たち一同で。

誰もが無謀だと思う夢のような目標。


それでも、その目標を実現できると信じて疑わない灰二が「走ること」にかけて天賦の才を持つランナーと出会った瞬間から、夢物語は動き出す。

 

駅伝を走る十人のランナーは個性豊かで曲者ぞろい。
誰もかれも魅力的だけど、自分は王子というキャラが好きだった。
ポンコツだと思われるキャラが必死に頑張る姿にはいつも心が熱くなる。

 

十人それぞれにストーリーがあり、終盤にかけて彼らの想いが吐露されていくにつれて、より一層登場人物たちに感情移入させられる。

 

それぞれが走ることに懸ける思いは異なるし
これからもずっと走り続けるとは限らない。

 

それでもなお、みんなが同じ目標に向かって走り切る姿に
何度も涙腺が緩みそうになった。

 

まっすぐな熱さに触れたい人はぜひ読んで欲しい。
そして、箱根駅伝も見て欲しい。

 

では次回。

「阪急電車/有川浩」の感想と紹介

96.阪急電車/有川浩

 

 人数分の物語を乗せて、電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。(p.130)

 

阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫
 

関西にまたがって走る私鉄阪急電車に乗り合わせた乗客たちのもとに起こるささいな出来事が連鎖して、それぞれの人生を少しずつ変えていく、有川浩の長編小説。

 

いつかぶりの有川浩さん。
あんなにも毎日乗っていたのにも関わらず、まだ読めていなかった。

阪急宝塚から西宮北口までを繋ぐ阪急今津線を舞台にした、各駅までの区間を走る車両の中には思い思いの悩みを抱える人々が乗っている。

 

図書館でよく見かける女の子と乗り合わせた青年。
息子夫婦との関係に思い悩む老婦人。
彼氏のDVに複雑な感情を持つ女子大生。

 

宝塚駅を発車した電車が西宮北口駅に辿り着くまでの、たった15分間に起こるふとした出来事に背中を押されるように、彼らはとある決意を抱く。

 

名も知らない、素性も知らない登場人物たち。
共通点は同じ電車に乗っただけ。

 

それだけの関係のはずなのに、小さい車両の中でいくつもの想いが駆け巡り、それぞれの心にメッセージが受け渡されていく。

 

決して互いに深く干渉するわけではないのに、すとんと彼らの心の隙間が埋まっていくようにバトンが渡されていくのが、不思議でいて心地よかった。

 

この小豆色の電車に毎日乗って大学に向かっていたと思うと、なんだか感慨深いような、懐かしい気持ちになる。出てくる駅名全部分かったなぁ。

 

では次回。

「和菓子のアン/坂木司」の感想と紹介

95.和菓子のアン/坂木司

 

和菓子は自由でおいしくて、人生に色を添える。(p.301)

 

和菓子のアン (光文社文庫)

和菓子のアン (光文社文庫)

 

デパートの地下にある和菓子屋で働く主人公の女の子が、個性豊かな従業員たちに囲まれながら和菓子の魅力に気づいていく、坂木司日常ミステリー

 

一つ前に読んだ本とのギャップがすごい。
まぁあえてそうしたのだけど。

 

大学に行かずに働くことを決めた主人公の杏子は、食べることが好きなことも相まってデパ地下にあった和菓子屋「みつ屋」でアルバイトをすることになる。

 

最初は和菓子について詳しくなかった主人公も、和菓子を買いに来るお客さんを接客しているうちに、その遊び心に満ちた和菓子の世界に魅了されていく。

 

また、おはぎ練り切りなど、普段何気なく食べていた和菓子にまつわる知識や名の由来などについて、物語の最中に遭遇する謎を交えながら知ることが出来る。

 

そして何と言っても、この物語に登場する人物たちが本当に魅力的。

 

主人公はぽっちゃりした自分の身体に不満を漏らしたり、かと言って美味しい食べ物の誘惑には負けてしまったりと、等身大な部分がすごく好きになった。

 

また、そんな主人公を囲む面々も個性豊かで、彼らの表と裏の顔とのギャップには面食らいつつも、みんなが生き生きと働く活気ある職場の雰囲気に読んでるこっちも和んでしまう。

 

久しぶりにお団子食べながら読んだ。
気分がすっかり春モードになってきた。