294.ラウリ・クースクを探して/宮内悠介
「こうして懐かしんで語ることができるのは、時を経たあとだからなのかも」(p.57)
コンピュータ・プログラミングの世界に夢中になったエストニアの少年は、歴史の渦に翻弄されながらも、自身が生きていく道を見つけて歩いていく人生を回想する、宮内悠介の長編小説。
1977年のエストニアに生まれたラウリ・クースクは、幼いながら父親が手に入れたコンピュータに夢中になり、魔法のようなプログラミングの世界にのめり込んでいく。
やがて、ロシア系の中学校に進学したラウリは、同じようにプログラミングの世界に魅入られたイヴァンと出会う。
初めて心から通じ合える友人と幸福な時間を過ごすラウリだったが、エストニアに広がりつつあった独立機運の高まりと、1991年に起きたソビエト連邦の崩壊によって、彼の人生は望まぬ展開を余儀なくされる。
生まれ持つ国籍や人種はナショナリズムの高揚にともなって、見知らぬ誰かを結束させるための旗印となり、身近に生活していた隣人たちを隔てる間仕切りへと使い回されてしまう。
あの時代のどこかで営まれるはずだった少年の日々は、決して遠い国の物語ではない。共通の言語で言葉を交わし、夢中になった世界を仕事にしたいと思う。ただ、それだけのかけがえのない日々。
光当たる道を歩けなかった彼の人生は、歴史に刻まれることはなかった。それでも、激動の時代をまっすぐしたたかに生きた軌跡はたしかに残っている。
では次回。






