カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

2025-01-01から1年間の記事一覧

「消滅世界/村田沙耶香」の感想と紹介

281.消滅世界/村田沙耶香 あなたが信じている「正しい」世界だって、この世界へのグラデーションの「途中」だったんだと叫びたくなる(p.154) 消滅世界 (河出文庫) 作者:村田沙耶香 河出書房新社 Amazon 人工授精で子供を産むことが定着した世界で、不変と…

「ミーツ・ザ・ワールド/金原ひとみ」の感想と紹介

280.ミーツ・ザ・ワールド/金原ひとみ 好きなだけでは、足りないのだ。幸せを願うだけでは、足りないのだ。誰しも人と人との間には理解できなさがでんと横たわっていて、相手と関係継続を望むのであれば、その理解できなさとどう接していくか、どう処してい…

「カフネ/阿部暁子」の感想と紹介

279.カフネ/阿部暁子 善意って油みたいなもので、使い方と量を間違えると、相手を逆に滅入らせてしまうから(p.94) カフネ 作者:阿部暁子 講談社 Amazon 最愛の弟を亡くして悲嘆に暮れていた主人公が、弟の元恋人である女性が勤める家事代行サービスを手伝…

「俺ではない炎上/浅倉秋成」の感想と紹介

278.俺ではない炎上/浅倉秋成 誠実そうな仮面の向こう側に潜む、凶暴さ、異常さ、残虐さが、ゆっくりと透けて見えてくる気がした(p.18) 俺ではない炎上 作者:浅倉秋成 双葉社 Amazon SNS上で炎上したことをきっかけに、殺人事件の犯人に仕立てあげられた主…

「君の顔では泣けない/君嶋彼方」の感想と紹介

277.君の顔では泣けない/君嶋彼方 人も街も家も、すべてが緩やかに、あるいは唐突に変化していく中で、この部屋だけは時を止めたままだ。(p.15) 君の顔では泣けない (角川文庫) 作者:君嶋 彼方 KADOKAWA Amazon 高校生1年生の夏に体が入れ替わってしまった…

「BUTTER/柚木麻子」の感想と紹介

276.BUTTER/柚木麻子 どんな女だって自分を許してもいいし、大切にされることを要求して構わないはずなのに、たったそれだけのことが、本当に難しい世の中だ。(p.30) BUTTER(新潮文庫) 作者:柚木麻子 新潮社 Amazon 男たちに取り入って私腹を肥やし、殺…

「恋に至る病/斜線堂有紀」の感想と紹介

275.恋に至る病/斜線堂有紀 「それじゃあ、宮峯は私のヒーローになってくれる?」寄河景がそう言ってくれた瞬間から、僕の余生が始まる。(p.31) 恋に至る病 (メディアワークス文庫) 作者:斜線堂 有紀 KADOKAWA Amazon 150人以上の死者を生み出した自殺教唆…

「藍を継ぐ海/伊与原新」の感想と紹介

274.藍を継ぐ海/伊与原新 きっとその感情を、理性で包むことができる人物だったのだろう。長崎の人々を襲った信じ難い理不尽を目の当たりにしながら、怒りと嘆きを問いかけに変えた。なぜこんなことが起きてしまったのだという、問いだ。(p.138) 藍を継ぐ…

「この夏の星を見る/辻村深月」の感想と紹介

273.この夏の星を見る/辻村深月 みんな、きっと怖いのだ。だから、「今だけ」遠ざける。(p.46) この夏の星を見る 作者:辻村 深月 KADOKAWA Amazon 未曾有のコロナ禍によって「いつもの日常」が動きを止めてしまった日々の中でも、中高生たちは決して諦める…

「砂嵐に星屑/一穂ミチ」の感想と紹介

272.砂嵐に星屑/一穂ミチ でも、薄い関わりであろうと縁は縁で、思いがけず誰かの魂にそっと指先が掠める瞬間というのは確かにあり、自分が望むと望まざるとに関係なく、尊い一瞬だと思う。(p.296) 砂嵐に星屑 (幻冬舎文庫) 作者:一穂ミチ 幻冬舎 Amazon …

「リライト/法条遙」の感想と紹介

271.リライト/法条遙 予感がする。何か、怖しいことが始まろうとしている。いや、もしかしたらもう既に始まっていて、そして終わろうしているのかも知れない。(p.33) リライト〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) 作者:法条 遥 早川書房 Amazon 未来から来た少年と…

「国宝/吉田修一」の感想と紹介

270.国宝/吉田修一 「ええか?どんなに悔しい思いしても芸で勝負や。ほんまもんの芸は刀や鉄砲より強いねん。おまえはおまえの芸で、いつか仇とったるんや。ええか?約束できるか?」(『国宝』上 青春編 p.309) 国宝上青春篇 (朝日文庫) 作者:吉田 修一 朝…

「金環日蝕/阿部暁子」の感想と紹介

269.金環日蝕/阿部暁子 彼の言うとおりだ。人間の顔はひとつではない。天と地ほどの振り幅で、慈愛から残虐までを同居させている。(p.141) 金環日蝕 (創元推理文庫) 作者:阿部 暁子 東京創元社 Amazon ひったくり犯を捕まえるために、犯行の瞬間に居合わせ…

「花まんま/朱川湊人」の感想と紹介

268.花まんま/朱川湊人 すべての人間が幸せになれることなど、この世には、きっとありはしないのだ。誰かの幸せの陰には、必ず誰かの不幸せがある。幸せというものの多くは、たいていどこか歪んでいる(p105-106) 花まんま (文春文庫) 作者:朱川 湊人 文藝…

「#真相をお話しします/結城真一郎」の感想と紹介

267.#真相をお話しします/結城真一郎 言われてみればすべてがおかしかったじゃないか。(p.216) #真相をお話しします(新潮文庫) 作者:結城真一郎 新潮社 Amazon マッチングアプリやリモート飲み会など、ここ数年で起こった社会の変容を取り入れながらも、…

「スメラミシング/小川哲」の感想と紹介

266.スメラミシング/小川哲 物語において、それらは恣意的に取捨選択され、誰かが登場人物になり、誰かが存在を消されます。そうすることで無意味で豊潤な現実を、意味ある虚構に組み換えてしまうのです。(p.44) スメラミシング 作者:小川哲 河出書房新社 …

「風のマジム/原田マハ」の感想と紹介

265.風のマジム/原田マハ まじむの心の中に靄のように立ちこめていたあきらめは、いつしか力強い入道雲のような希望に変わった(p.144) 風のマジム (講談社文庫) 作者:原田マハ 講談社 Amazon 沖縄の通信会社で派遣社員として働く主人公の女性は、社内ベン…

「早稲女、女、男/柚木麻子」の感想と紹介

264.早稲女、女、男/柚木麻子 洗いっぱなしの髪を一つにまとめ、安物の服を無造作に身につけているだけなのに、ピンと張ったアロエのような強さと凛々しさが眩しい(p.72) 早稲女、女、男 (祥伝社文庫) 作者:柚木麻子 祥伝社 Amazon 早稲田大学に通うガサツ…

「謎の香りはパン屋から/土屋うさぎ」の感想と紹介

263.謎の香りはパン屋から/土屋うさぎ ___その瞬間、焼き上がったパンのように、頭の中で描いていた思考が一気に膨らんだ(p.36) 謎の香りはパン屋から 作者:土屋うさぎ 宝島社 Amazon 大阪府豊中市の駅近くに構えるパン屋さんを舞台に、個性豊かな従業…

「悪い夏/染井為人」の感想と紹介

262.悪い夏/染井為人 ただ朝と夜をなぞる生活が続いていた。感情を切り離し、理性を遠く向こうに投げ捨てた。(p.276) 悪い夏 (角川文庫) 作者:染井 為人 KADOKAWA Amazon 生活保護受給者のもとを巡回するケースワーカーとしてまじめに働く主人公は、同僚が…

「博士の長靴/瀧羽麻子」の感想と紹介

261.博士の長靴/瀧羽麻子 「天気を変えることはできない、って祖父はいつも言ってます。人間も、他の生きものも、あるがままを受け入れるしかないんだって」(p.200) 博士の長靴 (ポプラ文庫 た 14-1) 作者:瀧羽 麻子 ポプラ社 Amazon 天気の研究に生涯を捧…

「私にふさわしいホテル/柚木麻子」の感想と紹介

260.私にふさわしいホテル/柚木麻子 「どうせ盗むなら、売れっ子以外の本もちゃんと盗め!口惜しかったら自分が本当に欲しい本探して盗め!犯罪者のくせして、世の中のものさしに従ってんじゃねえよ!」(p.196) 私にふさわしいホテル (扶桑社BOOKS) …

「少年と犬/馳星周」の感想と紹介

259.少年と犬/馳星周 漆黒の瞳の奥に、寂しさに似た感情が宿っているような気がした。(p.292) 少年と犬 (文春文庫) 作者:馳 星周 文藝春秋 Amazon 2011年に起きた大震災によって、傷つき思い悩む人々のもとへ現れた一匹の犬は、彼らに寄り添いながらも、ひ…

「ある男/平野啓一郎」の感想と紹介

258.ある男/平野啓一郎 「他人の傷を生きることで、自分自身を保っているんです」(p.6) ある男 (コルク) 作者:平野啓一郎 コルク Amazon 名前と過去を偽って生きていた、とある男の人生にのめり込んでいく弁護士の主人公の目線から、男が別人を名乗った理…

「汝、星のごとく/凪良ゆう」の感想と紹介

257.汝、星のごとく/凪良ゆう わたしにとって、愛は優しい形をしていない(p.269) 汝、星のごとく 作者:凪良ゆう 講談社 Amazon それぞれ孤独を抱えながらも惹かれあい、瀬戸内に浮かぶ島でひっそりと営まれていたふたりの愛は、年月を経てさまざまなカタチ…