カタコトニツイテ

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「俺ではない炎上/浅倉秋成」の感想と紹介

278.俺ではない炎上/浅倉秋成

 

誠実そうな仮面の向こう側に潜む、凶暴さ、異常さ、残虐さが、ゆっくりと透けて見えてくる気がした(p.18)

 

SNS上で炎上したことをきっかけに、殺人事件の犯人に仕立てあげられた主人公の逃亡劇がシリアスにもユーモラスにも描かれる、浅倉秋成の長編ミステリ。

 

大手ハウスメーカーの営業部長として精力的に働いていた主人公は、ある日突然、殺人事件の犯人として素顔や名前がSNS上に晒されてしまう。

 

すべてが事実無根にもかかわらず、会社や友人にはまったく信用されず、次々と自身に不利な証拠がインターネットの海を駆け巡っていく。

 

最初は憤りを感じていた主人公だったが、だんだん身の危険を覚え始め、当てもなく逃げ回ることになる。周囲をめぐる状況と自己認識がリアルタイムで更新されていくごとに、彼の無防備な姿がどこか滑稽にも見えてきて、よりいっそう悲壮感が漂っていた。

 

不確かな情報を精査せず、半自動的に拡散する人がごまんといるSNS時代において、この物語は決して他人事ではない。真実への道筋を有象無象の情報が撹乱していくたびに、恐怖よりも徒労感や可笑しみを覚えた。

 

では次回。