172.硝子の塔の殺人/知念実希人
人間は最も大事にしているものを踏みにじられたとき、他人を殺すんだ(p.472)
硝子の塔がそびえ立つ館に集められたゲストたちは、館内で巻き起こる不可解な事件の数々に翻弄されていく、知念実希人の長編ミステリ。
本格ミステリの見本市かのごとく、国内国外問わず、数々の名作ミステリが物語の中では登場する。
海外の古典ミステリはアガサ・クリスティとエラリー・クイーンぐらいしか読んだことがないのだけど、名前は知っているミステリや作者がたくさん登場していたので、最後までワクワクしながら読むことができた。
雪降る山奥に建てられた硝子の尖塔。
奇妙な館には、多種多様な人物たちが集められた。
医者、小説家、編集者、料理人、霊能力者、刑事、そして自称名探偵。
そんなバラエティに富んだゲストたちが集まって何も起こらないはずもなく、館の主人である大富豪の老人が密室で謎の死を遂げたことを皮切りに、いくつもの不可解な死が連続して起こる。
世間からも隔絶された場所に閉じ込められたゲストたちは、次々と巻き起こる事件に戸惑いながらも、名探偵に導かれるように真実に迫っていく。
この作品では、奇妙な館で起こる連続殺人、クローズドサークル、読者への挑戦状など、古典的なミステリの手法を踏襲しながら、全く予想もつかない結末へと読者を誘っていた。
何より名探偵として登場する女性の語りは、著者の溢れ出るほどのミステリ愛が乗り移ったかのようで、物語の中では生き生きとしながら館内を縦横無尽に動き回っていた。
過去の名作ミステリへの愛とリスペクトがそこかしこから感じられる作品だったので、作中で登場する作品たちも興味があれば読んで見てほしい。もちろん自分も。
では次回。