65.そして二人だけになった/森博嗣
自然には、権利など、最初からない。(p.29)
海峡大橋を支えるアンカレイジの内部に造られた閉鎖空間の中で起こる殺人事件とその場に取り残された二人の謎を巡る、森博嗣の長編ミステリー。
名前の通り、アガサクリスティの「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品となっているが、内容はそこまで似通っているわけでないので原作を読んでなくても十分楽しめる。
むしろ、ミステリーとしての謎解きだけでなく、登場人物たちの哲学的な会話や複雑な人間模様にもフォーカスが当てられていて、森博嗣ワールドが堪能できる一冊となっている。
「バルブ」と呼ばれる巨大なコンクリート塊の内部に閉じ込められた、六人の関係者たち。
主人公は盲目の科学者である兄の代役としてその場に参加していたが、その「バルブ」内の密閉空間の中で殺人事件が起こってしまう。
疑心暗鬼に陥ってしまう集団と、それに構わず起こる奇怪な殺人事件。
最終的に「二人だけになった」空間でどんな運命が待ち受けているのか、最後まで読んでみると、謎が謎を呼んでちゃんと理解できているのかさえ分からなくなる。
この不可思議な感覚が森博嗣の作品の醍醐味でもあり、中毒的な部分でもあるのかもしれない。
シリーズ物が多い森博嗣の作品の中では珍しい一冊完結の作品なので、気楽に読み始めることができる物語になっているので、ぜひ。
では次回。