81.楽園のカンヴァス/原田マハ
「それこそが『永遠を生きる』ってことだよ」(p.343)
巨匠アンリ・ルソーが残した名作である「夢」に酷似した絵画を巡り、ルソーを敬愛する二人がその絵の譲渡権を競い合う七日間を描いた、原田マハの美術ミステリ―。
美術館のキュレーターとしての側面も持つ原田マハさんが描く本作では、美術ミステリーと言いいつつも殺人が起きるわけではなく、有名絵画を盗もうと大争奪戦が展開されるわけではない。
ある大資産家が所有するルソーの名作、「夢」に似た絵画の真贋判定を行い、認められた者に絵画の所有権を譲渡する。手がかりとなるのは謎の古書。
対決することになるのはニューヨーク近代美術館のキュレーターであるティム・ブラウンと、日本人研究者の早川織絵。
二人の研究者が真贋判定をする材料となる謎の古書を紐解いていくのだけど、誰が書いたのかも分らぬままどんどん謎は深まっていく。
ただ、この七日間を通して、彼らが時には対立しながらも良きライバルとして関係を深めていくのが読んでいても伝わってきた。特にティムのもとには様々な人物の介入があって、日が進むごとに織絵に対する感情や考え方がころころ変わっていくのが読んでいて面白かったな。
ただ、何といってもこの作品では美術に対する情熱が余すことなく込められている。
著者は言わずもがな、登場人物たちも含めて、価値や名声に囚われない彼らの美術作品に対する愛が物語を通して随所に感じられる。
特に良かったのが最後の場面。これまでのストーリーを読んできたからこそ、より最後の二行が心にぐっとくる。
自分もあまり美術には詳しくなかったけども、スマホで絵を検索すればすぐに出てくるので、ぜひ鑑賞しながら読んでみて欲しいな。
では次回。