「絵を描いたその場所に、その絵は残らない。生産する場所と消費する場所は一致しないのは世の常です」(p.96)
パリのオークションに持ちこまれた、ゴッホの自殺に使われたとされるリボルバーが引き金となり、稀代の芸術家であるゴッホとゴーギャンの知られざる真実を紐解いていく、原田マハの長編小説。
主人公は小さなパリのオークション会社に勤務する女性。
そんな彼女のもとに、謎の女性からとある一品が届けられる。
それは、かのフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたとされる、錆びついた一丁のリボルバーだった。
フランス絵画史の研究者でもある主人公は、いわくつきのリボルバーが本当にゴッホを撃ち抜いたものなのかを調べるため、ゴッホゆかりの地へと赴く。
そして、彼女たちは、ゴッホとゴーギャンのただならぬ関係について、歴史には残らなかった真実に迫っていく。
美術史に残る謎の一つであるゴッホの死に対して、決して憶測ではない丁寧な歴史見分と、豊かな色彩で描かれる登場人物の回想によって、歴史に名を刻む世紀の画家たちが実際に描いたストーリーだと信じさせられた。
ゴッホとゴーギャン、お互いを意識していたからこそ、アートに対する才と情熱が彼らを引きつけ、結果的にぶつかりあい、決裂してしまう。そんな彼らの人生を通したライバル関係だけでも、一つの物語になるほどの重厚感。
それでも歴史の空白を埋める回想は、まさしく真実を辿るミステリーだった。
原田マハさんの物語には、美しく心を動かす一文で締められるから好き。
では次回