229.君が手にするはずだった黄金について/小川哲
昔話というのは車窓の景色のように一瞬で流れ去るから面白いのであって、現場まで立ち戻って仔細に検討したらどんどん粗が見えてきてつまらなくなる(p.187)
作者自身を投影させたような主人公が語り部となり、恋人や友人たちとの会話を通して、成功や承認を渇望する人々の成れのはてを暴いていく、小川哲の連作短編集。
紡がれる6つの物語は、どれも作者に似たパーソナルを持つ人物を主人公にして、恋人や友人たちとの何気ない会話を発端として始まっていく。
就活のエントリーシートで出された「人生を円グラフで表現する欄」に悪戦苦闘したり、昔話あるあるをSNSに投稿してバズった漫画家のある噂を耳にしたり、口だけだった友人がいつのまにか有名な投資家になっていたり。
どこかリアルな感触が残るエピソードは、作者の心の呟きや地元の友人との会話を盗み聞きしているようでいて、なぜかいつまでも聞いていられる心地の良さがあった。
それに、いくつかの物語では、どこか胡散臭い人物が登場するのだけれど、主人公が彼らに抱く複雑に見えて直球な発言の数々は、作者の脳から直接、発された言葉な気がしてならなかった。
物語のなかに自身を忍びこませながら、今まで隠し持っていた悶々とした想いを、隙を見て架空の登場人物に叩きつけていく姿はある意味、痛快でもある。
また、気心の知れた友達にしか見せない不遜な態度や軽く受け流されていく屁理屈には、身構える隙もなく笑ってしまった。
昔ながらの友人との会話って脈絡もなく昔話に行きつくから不思議だ。
では次回。