カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「クララ殺し/小林泰三」の感想と紹介

133.クララ殺し/小林泰三

 

「心があるように振る舞うことと、心があるということは同じでしょうか?」(p.198)

 

夢と現実の二つの世界で少女の命を狙う邪悪な殺人計画を巡り、主人公はどうにかして少女を守るべく、両方の世界で真実を追い求める、小林泰三の長編ミステリ。

 

前作「アリス殺し」に連なる「メルヘン殺しシリーズ」の第二作目となる。
まさか、続くと思っていなかった。あの終わり方で。

 

前作に引き続き登場する蜥蜴のビルはある日、普段暮らしている「おとぎの国」ではなく緑豊かな大自然の山の中へと迷い込み、車椅子に乗る「クララ」という少女お爺さんに出会う。

 

夢の国の世界では蜥蜴のビルとして、現実の世界では人間の井森健として。
命を狙われる「くらら」を守るべく、両方の世界で聞き込みを始めていく。

 

あまりにも登場する人物が多い上に、馴染みのない覚えにくい名前の人物たちが矢継ぎ早に会話を繰り出してくるので、気を抜くと誰が喋っているのか分からなくなる。相も変わらず、見事な道化っぷりを披露するビルを除いて、だけど。

 

また、現実と夢の世界が何度も反転しては物語が展開していくので、終盤に差し掛かるにつれて頭がこんがらがって、危うく考えることを放棄してしまいそうになった。

 

しかし、前作に引き続いてダークな世界観ポップな邪悪さを内包した物語は、最後まで読書を惑わしては驚きの真実を提供してくれる。奇妙な設定にも徐々に慣れてくるはず。

 

メルヘンチックな童話と残酷なミステリ。異なる世界観でありながら、どこか通ずるものがあって、違和感なくミステリの要素が物語に溶け込んでいるのが面白い。


あと、何だかんだ正直者のビルは憎めなくて好き。

 

では次回。