カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「水を縫う/寺地はるな」の感想と紹介

240.水を縫う/寺地はるな

 

時折、ぎゅっと目をつむった。おさない頃のように。涙はこぼれる前にとめなければならない。こぼれたらあとはもう、とめどなくあふれてきてしまうから。(p.150)

 

何気なく放たれる○○らしさ」という言葉に立ち止まってしまう家族が、それぞれが抱える悩みと向き合いながら言葉を交わしていく、寺地はるなの連作短編集。

 

裁縫が得意な高校1年生の清澄は、手芸好きをからかわれ、どことなく周囲から浮いたまま学校生活を過ごしてきた。一方、姉の水青も、幼いころから「かわいい」という言葉が苦手で「女の子らしい」ものを遠ざけて生活していた。

 

そんななかで、水青が晴れて結婚することになり、派手で華やかな衣装を嫌がる彼女に対して、清澄は姉のウェディングドレスを手作りすると宣言する。

 

祖母は彼の決心を後押しするが、母親はそんな息子の行動に反対して、それぞれが自身の葛藤と向き合いながら、結婚式までに残された時間は流れていく。

 

誰かから押しつけられた「らしさ」「ふつう」をひとりで飲み込む必要なんてないし、ましてやぎゅっと目をつむって、涙を堪える必要なんてない。

 

悩みに対するひとつの答えを見つけた清澄から、姉、母、祖母と物語のバトンが渡されるたびに、彼らを縛りつけていた糸は次第に解けていった。

 

寺地はるなさんが描く家族の物語は、誰かひとりの想いに肩入れすることもなく、それぞれが持つ悩みを葛藤を満遍なく掬いあげてくれる。

 

個人的に、4章のエピソードがお気に入り。

 

では次回。