カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「青い春を数えて/武田綾乃」の感想と紹介

193.青い春を数えて/武田綾乃

 

曖昧な微笑。曖昧な返事。私が他者に見せる感情はいつだって、水で薄めた絵の具みたいに芯がなくてぼんやりしている。(p.28)

 

少女から大人へと変わっていく中で生まれる葛藤や等身大の悩みを抱えた5人の高校生が、様々な感情に振り回されながらも成長していく、武田綾乃連作短編集

 

放送部の部室や補修で居残った放課後の教室で、平凡で何気ない会話を交わす彼女たちは、それぞれ心の奥底に漂うモヤモヤとした感情を抱えながら学生生活を過ごしている。

 

先輩と後輩、姉と妹、友人同士、顔と名前しか知らない同級生。
関係性は変われど、彼女たちが胸に秘める想いは、どれも遠い場所に置き去りにしたい感情に他ならないけれど、見向きもせずに誤魔化したくないものでもある。

 

それでも、綺麗な青春の中でもがきにもがいて、躓いても吹っ切れたように前を見据える彼女たちの姿は清々しいくらいに頼もしく思えた。

 

また、この物語で描かれる彼女たちの日常は、決して急激に変化していくものではなくて、途切れず緩やかに移ろっていく電車の風景のようで、だからこそ、変わらない日々の中で変わろうとする勇気がどれほど称賛に値するものなのかを思い出させてくれた。

 

自身の中で矮小化してしまいそうになる悩みは、表に出さずに溜め込んでいるとどこまでも膨らんで、やがて不安だけ残して萎んでいく。

 

でも、呆けてしまうほどの長い時間、自問自答しながら答えを探していたものが、近くにいた人の何の気無しに呟いた一言で解決してしまうことだってある。

 

一瞬で過ぎ去っていく青春の日々の中で、綺麗な思い出も切実な想いも全て引っ括めて、前に進んでいく道標になっていくのかもしれない。

 

では次回。