カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈」の感想と紹介

200.成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈

 

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」(p.6)

 

中学2年生の夏休みを全て西武大津店に捧げた少女、成瀬が突き進んでいく人生が滋賀県の街並みとともに描かれる、宮島未奈の青春小説。

 

きっと滋賀県民が読んだら、3割増しくらいで楽しめるはず。
それぐらい滋賀県愛とローカルネタに溢れていた。

 

高校生ながらM-1グランプリを目指す、突然、髪の毛をバッサリと切って坊主頭にする、はたまた200歳まで生きると豪語する。

 

滋賀県大津市に誕生した成瀬あかりの物珍しい行動に
誰もが驚き意表を突かれる。

 

物語の中には彼女を敬遠したり、面白半分に眺めたりする者もいるが、成瀬は気にも留めずに飄々と自らの興味の赴くままに行動していく。

 

誰もが生きている限り、無謀な挑戦とも言える出来事に直面する時が来る。報酬や賞賛などない、コスパなんてどう考えても悪い、挑戦したからと言って結果がついてこない事は世の中にごまんとある。

 

それでも、成瀬あかりという主人公は、躊躇なくその可能性に賭けることができる、その可能性をどこまでも引き伸ばして楽しむことができる。

 

だからこそ、読者は純粋な探究心だけで突き進んでいく彼女に魅了され、憧れに近い感情を抱いてしまう。

 

調べればすぐに答えが目の前に差し出される現代において、日常のどこかにひっそりと落ちている、誰もが見て見ぬふりをするハテナを自らの手で確かめにいく彼女の姿を見ていると、改めて自分もそうありたいと強く思わされた。

 

では次回。