カタコトニツイテ

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「レーエンデ国物語 喝采か沈黙か/多崎礼」の感想と紹介

231.レーエンデ国物語  喝采か沈黙か/多崎礼

 

辛いだけの記憶なら忘れてしまったほうがいい。だが辛すぎる記憶は癒えることのない傷になる。忘れたくても忘れられない。(p.140)

 

聖都の下町にある劇場で生み落とされた双子の兄弟は、失われた歴史を探す旅の最中に知りえた真実をもとに、世界を変える一世一代の舞台の幕を開ける、多崎礼ファンタジー小説

 

銀呪の地・レーエンデの歴史を紐解く『レーエンデ国物語』の第3幕で描かれるのは、抑圧された社会で華ひらいた芸術や文化をもって、変革を起こそうとするものたちの姿だった。

 

芸術と色欲が咲き乱れる街のなか、娼館の裏にて開かれる劇場「ルミニエル座」の俳優アーロウには、天才劇作家として名を馳せる双子の兄・リーアンがいた。

 

人々を虜にする戯曲や芝居を生み出し、その才能を遺憾無く発揮する彼に対して、自らを凡人と自覚するアーロウは、嫉妬と羨望が入り混じった複雑な想いを抱く。

 

しかし、歴史の闇に葬り去られた「レーエンデの英雄」を探す旅に出た彼らは、差別と暴力が横行する世界を変えるため、お互いに人生を賭けた大勝負に打ってでる。

 

ページをめくるたびに思い出す。この物語は何百年の時を経て受け継がれた歴史のなかで、一筋の線となって、確かに紡がれているのだと。

 

そして、この物語に至るまでの軌跡となる物語があるからこそ、章の幕間で描かれる、張りつめた空気が漂う渾身の舞台に希望を見出すことができる。

 

暗黒の時代を過ごすレーエンデの民に、失った矜持と尊厳を取り戻すため、稀代の劇作家が作りあげた舞台は、必ず革命の旗印となる。

 

では次回。