カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「夜の国のクーパー/伊坂幸太郎」の感想と紹介

201.夜の国のクーパー/伊坂幸太郎

 

「疑うのをやめて、信じてみるのも一つのやり方だ」(p.300)

 

見覚えのない土地で目を覚ました男は、仰向けになった胸の上に座る一匹の猫から、彼らの国を取り巻く摩訶不思議な物語を語られる、伊坂幸太郎の長編小説。

 

大学生の頃に図書館で借りたことがあったけれど
その時は読みきれずに返却期限が来てしまった。
今回は改めて読了。

 

ある日、小さな国で戦争が終わったことを国王が告げた。
敵国に支配されることになるが、危害を加えられることはないと。

 

しかし、見知らぬ動物を連れて国へと侵入してきた敵国の戦士は、小さな国には存在しなかった銃という武器を用いて、国王の頭を撃ち抜き、あっという間に国を武力で支配した。

 

一瞬の出来事に国民たちは混乱する中、昔からの言い伝えで残る「クーパーの民」と呼ばれる、目には見えない透明な戦士に助けを求めるように祈り始める。

 

そんな、突如として平穏が破られた国で、のほほんと暮らしていた猫のトムは、やがて国民や街の中を走り回る鼠たちから情報を聞き出し、この世界の秘密を知ることになる。

 

古くから伝わる寓話のような、浮世離れした世界が広がっているにもかかわらず、どこか現実世界が地続きとなった世界観は、自分が伊坂幸太郎作品を好きな理由の一つだった。

 

主人公の「私」と猫の会話の中で語られるのは、今そこで起きたとは思えないぐらい空想じみていて、それなのに、現実に差し迫っている出来事だと感じさせる言葉もあって、猫が喋っているのも含めて不思議な聴き心地がした。

 

物語を読み進めていると、遠くの国で貶されている悪しき構造は、想像よりも近い場所で誰にも気づかれずに成立している仕組みなのかもしれないと思ってしまった。

 

知らないことが罪に繋がるのであれば、先に持つべきものは武器ではなく知る勇気であり、疑うことと信じることを使い分ける理性なのだろう。

 

では次回。