カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「自転しながら公転する/山本文緒」の感想と紹介

202.自転しながら公転する/山本文緒

 

何かに拘れば拘るほど、人は心が狭くなっていく。
幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失くしていく。(p.436)

 

主人公の女性は家族や恋愛、仕事の面倒に振り回されながらも、自らの人生を追い求めて苦悩する、山本文緒の長編小説。

 

32歳のは、母の看病のために生まれ育った茨城に戻ると、アウトレットモールのアパレル店で働き始める。そして、同じ敷地内にある回転寿司店で職人として働く、貫一と付き合うことになる。

 

しかし、貫一との恋愛はどこか将来の見通しが心許なく、母の具合も不安定なまま、その上、仕事先では上司のセクハラが横行する事態に、都の心は次第に不安定になっていく。

 

ささやかな幸せで満たされた瓶には、水を刺すように亀裂が走り、どこにも置くことができないまま時間が過ぎていく。この物語では、そんないつ終わるのかも分からない、緩やかな停滞が描かれている。

 

果たして、このままの道を進んでも良いのだろうか。
この人とずっと、一緒にいて幸せになれるのだろうか。

 

考えれば考えるほど答えの見つからない選択が目の前をチラつき、いくつもあった世界線は決して同じ軌道には重ならないからこそ、過去を振り返ると、どうしても今がざらついて見えてしまう。

 

それでも都は、煮え切らない考えを持つ人々に苛立ち、思い通りにいかない理想と現実の落差に落ち込み、屈折した想いを奥底に抱えながらも、必死で生きていくために立ち塞がる何かに食らいついていく。

 

彼女が導き出した答えは、きっと同じように思い悩んでいる人々の心の重荷を軽くしてくれる傍ら、数多ある選択肢から一つの道を選び取る勇気を与えてくれる。

 

どん底に叩き落とされることなく、寄り道も許されない、ただ真っ直ぐ歩いていけるほどの体力を残したまま進んでいく平坦な道のりほど、恐ろしいものはないから。

 

では次回。