カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「リバーサイドチルドレン/梓崎優」の感想と紹介

203.リバーサイドチルドレン/梓崎優

 

暗号めいた呼び名は現実をうまく隠すためのオブラートなのだ。直接口にするには重たくて生々しい現実を、別の言葉に置き換えて和らげる。それは、この世界で生きるための、他愛のないけれど切実な術の一つなのだ。(p.97)

 

カンボジアの地でストレートチルドレンに拾われた日本人の少年は、突如として起きた殺人事件の恐怖に晒されながら、不条理な世界に隠された真実を探そうとする、梓崎優長編ミステリ

 

止まることなく降り続ける雨。鬱蒼と広がる木々と濁りきった川。
そして、煙をあげる巨大なゴミ山。

 

そんな厳しい環境下で、廃屋じみた小屋で暮らす主人公は現地で出会った同年代の少年たちとともに、その日を生きるためのお金を稼ぐため、ゴミ山へと狩りに繰り出す。

 

彼らは巷でストリートチルドレンと呼ばれ、偏見の眼差しに晒されていた。
それでも、彼らは質素な暮らしに信頼と安息を得ながら、わずかな食料を分け合い仲間達ともに過ごしていた。

 

しかし、小さなアルコールランプに照らされた些細な幸せは、突如として起こった殺人事件によって終止符が打たれ、無常にも放り出された過酷な現実と対峙せざるを得ない状況へと陥ることになる。

 

何よりも印象に残ったのは、彼らが過ごすカンボジアの地に広がる理想と現実だった。観光地として賑やかになる街と、ひた隠しにされ、誤魔化される存在として生きる子どもたちの姿と廃棄されたゴミの山。

 

背景に流れる残酷な過去の経験を洗い流すために、彼らが少しでも現実を和らげるために口にする暗号めいた呼び名は、より一層、生々しい現実を浮き彫りにするようだった。

 

貧しさの中にも喜びを見出す彼らの生活が、大人たちに搾取されながら自由を縛られる日々と引き換えに存在するのだとしたら、成す術のない惨状に打ちひしがれてしまいそうになる。

 

ただ、降りしきる雨に打たれながらも、過去を乗り越えて、なお現実を見据える子どもたちの姿は、決して目を背けて蓋をされる存在ではないと、そう確信できる。

 

では次回。