204.コンビニ兄弟/町田そのこ
コンビニ店員だって個性があっていいんだよ。そして、ぼくはね、ふらっと立ち寄るだけの場所だからこそ、最高に居心地のいい空間にしたいんだ」(p.347)
あらゆる人々を籠絡させてしまう魔性の店長が勤務するコンビニ店を舞台に、個性豊かな常連客が巻き起こす人間模様が描かれる、町田そのこの連作短編集。
九州のみで展開されるコンビニチェーン「テンダネス」で働くパート店員の日課は、同店で働く、老若男女を虜にする名物店長である志波三彦を観察することだった。
微笑み一つで女性を身悶えさせることができる彼に接客をしてもらおうと試みるファンは後を絶たず、コンビニ内とは思えない異様な光景が毎日のように繰り広げられていた。
そんな「テンダネス」には、日々、悩みを抱える人物が訪れる。
老後の生き方に不満を覚える夫、クラスの人間関係に悩む女子中学生、漫画家の夢を諦めきれない塾講師。
毎日のように通い詰める人物もいれば、ふとしたきっかけから足を踏み入れる者もいて、誰にでも開かれている便利な場所だからこそ、多種多様な人々が思い思いの感情を分かち合うことができるのかもしれない。
そして、どの登場人物にも心の拠り所となっているような、行く度に買ってしまう何かが「テンダネス」にはあって、ささやかな楽しみが普遍的な日常に癒しを与えてくれるのだと、幸せそうにコンビニ商品を頬張る彼らを見て思わされた。
ちなみに、作中に出てくるコンビニのアレンジレシピは半信半疑で読んでいたのだけれど、実際に試した人がいれば感想を教えて欲しいなとちょっとだけ思った。
では次回。